交響曲第2番 (ジェイガー)

交響曲第2番『三法印』（Symphony No.2, The Seal of the Three Laws）

ロバート・ジェイガーによって書かれた、吹奏楽のための2番目の交響曲です。大乗仏教の根幹をなす教えとされる「三法印」（諸行無常、諸法無我、涅槃寂静）を音楽で表現することを試みた標題音楽であり、全3楽章で構成されています。

作曲経緯

この作品は、1976年に立正佼成会の当時の会長であった庭野日敬（にわの にっきょう）氏の古希（70歳の誕生日）を記念し、東京佼成ウインドオーケストラによって委嘱されたものです。委嘱元の背景と関連して、仏教の思想である「三法印」が作品の主題として選ばれました。同年11月、東京にて作曲者自身の指揮により初演されました。

作品の特徴

ジェイガーの代表作の一つである『交響曲第1番』が、明快でロマンティックな親しみやすい作風であるのに対し、『三法印』ではより抽象的な音楽表現と複雑な作曲技法が採用されている点が際立っています。この音楽は、表面的な美しさよりも、根源的な思想や移り変わる世界の様相を描き出すことに重きを置いているかのようです。

また、『交響曲第1番』が全日本吹奏楽コンクールなどで頻繁に演奏され広く親しまれている一方で、この『三法印』は演奏機会があまり多くないのが現状です。これは、作品の持つ抽象性や複雑さが、一般的なレパートリーとして定着しにくい一因となっている可能性も考えられます。

楽曲構成

この交響曲は全3つの楽章で構成されており、全体の演奏時間は約17分です。楽譜の冒頭には、各楽章の題材となっている「三法印」の思想について、庭野日敬氏の著作からの引用がプログラムノートとして掲載されており、作品が音楽と仏教思想の結びつきを強く意識していることを示しています。

各楽章は「三法印」の一つの教えを題材としています。

第1楽章：諸行無常（All Things are Impatient）
「この世のすべてのものは常に変化し、生滅を繰り返している」という思想が描かれます。活動的なアレグロのテンポで書かれており、流動的で移り変わる世界の様相が音楽で表現されます。繊細な響きを持つ序奏部分に続き、即興的な雰囲気を伴うパッセージが交錯します。その後、テンポを速めた主部に入り、「明るく（Brightly）」という指示のもと、ピアノやハープ、各楽器のソロが効果的に用いられ、変化に富んだ音楽が展開されます。

第2楽章：諸法無我（Nothing has an Ego）
「すべての存在は固定した実体（我）を持たず、相互に依存し合って存在している」という思想に基づいています。「活発に（Spirited）」という指示があるように、前楽章に増して活動的なスケルツォ楽章です。冒頭にサクソフォンによって提示される主題を中心に音楽が進み、各楽器のソロやソリ、そして対位法的な複雑な書法が駆使されます。これにより、「すべての事象は互いに関連し、助け合って存在している」という無我の境地が音楽的に表現されます。短い中間部（トリオ）では、単調な伴奏に乗ってチューバのソロが登場し、独特の雰囲気を作り出します。

* 第3楽章：涅槃寂静（Nirvana is Quiescence）
「煩悩の火が消え、心身が完全な平安に至った境地（涅槃）は静寂である」という思想がテーマです。「ゆっくりと、平安に（Slowly, peacefully）」と指示されたアダージョ楽章であり、終始静謐（せいひつ）な響きで進行します。この楽章では、苦しみから解放された究極の心の安らぎと静けさが、穏やかな音楽によって表現されます。

『交響曲第2番『三法印』』は、ジェイガー作品の中でも特異な位置を占める作品であり、仏教思想という異文化の主題を音楽に昇華させた試みとして、興味深い作品と言えるでしょう。

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