交響曲第4番 (ブルックナー)

アントン・ブルックナー 交響曲第4番 変ホ長調 「ロマンティック」

アントン・ブルックナーの交響曲第4番変ホ長調は、「ロマンティック」という愛称で広く親しまれています。ブルックナー自身が名付けたこの愛称は、その旋律の美しさや壮大なオーケストレーションを彷彿とさせ、多くの人々を魅了してきました。ブルックナーの交響曲の中でも比較的演奏時間が短く、親しみやすい曲想であるため、演奏会でも頻繁に取り上げられる人気の作品です。

タイトルについて

ブルックナー自身がこの交響曲を「ロマンティック」と呼んだのは、完成後の1876年以降の書簡においてでした。この名称は英語で「Romantic」と訳され、日本語でも一般的に用いられています。CDや演奏会などでも、「ロマンティック」というタイトルが添えられることがよくあります。

作曲の経緯

作曲は1874年1月2日に開始され、同年11月22日に第1稿が完成しました。その後、ブルックナーは1877年に交響曲の全面的な見直しを考え、1878年1月から改訂作業に着手しました。特に第3楽章は全く新しい音楽に置き換えられ、この改訂作業は1878年11月に完成しました。この1878年稿の第4楽章は、「民衆の祭り」と呼ばれることもあります。さらに1880年、第4楽章を大幅に修正し、第2稿が完成しました。1881年には、ハンス・リヒターの指揮でウィーン初演が行われました。ブルックナーはリハーサルの際に感激し、リヒターに1ターラー銀貨を贈ったというエピソードが残っています。1886年には、アントン・ザイドルによるニューヨーク初演のために、わずかな改訂が加えられました。1887年から1888年にかけては、弟子たちがブルックナー監修のもと改訂を施しました。

出版の経緯

ブルックナーは1886年時点で、第2稿に基づく楽譜の出版を企てましたが、これは実現しませんでした。実際に出版された楽譜としては、1889年に、第3稿に基づく楽譜がグートマン社から出版されたのが最初です。国際ブルックナー協会校訂による楽譜は、1936年に出版され、その後内容修正のうえ1944年に再出版されました。これは第2稿に基づくもので、「ハース版」とも称されました。戦後、国際ブルックナー協会の校訂作業がノヴァークに引き継がれ、それに基づく楽譜が順次出版されました。

各稿・版の評価

今日よく演奏されるのは、1878/80年稿に基づくハース版またはノヴァーク版第2稿です。1874年稿に基づくノヴァーク版第1稿によるCD録音も複数存在します。1888年稿については、「改訂版」に基づくCDが、古い録音で複数存在します。

第2稿

ハース版とノヴァーク版第2稿は、本質的には同じものと考えることができますが、参照した資料の違いなどに起因する相違点があります。顕著な相違点として、第3楽章トリオ冒頭の管弦楽法や、第4楽章最後で回想される第1楽章第1主題の管弦楽法などが挙げられます。

1878年稿

1878年稿において、終楽章は、基本的には第1稿の終楽章の音楽を踏襲しています。しかしその後1880年に、音楽の展開を全面的に変更した改訂を行い、第2稿となりました。そのため、終楽章のみ1878年の形態が独立して残されています。

第1稿

第1稿と1878年稿（第1～3楽章は第2稿）を比較すると、第1稿には、旋律・フレーズ単位に要する小節数が非均等、旋律の展開・推移過程が長い、などの特徴があります。第2稿と比較して第1稿を「未整理」「冗長」「筆の赴くまま」などの評価を与える者もいますが、斬新な魅力を見出し評価する者もいます。

第3稿

第3稿について、かつてはブルックナーの弟子であるフェルディナント・レーヴェが勝手に改竄を行った版であるとの評価が普及していました。しかし、2004年にコーストヴェット校訂による第3稿が出版されたことを機に、この版の再評価が始まっています。第2稿と第3稿を比較すると、第3稿では表情が非常に豊富になっているほか、オーケストレーションの相違が随所に見られます。

マーラー版

グスタフ・マーラーが1895年に編曲した版があります。1888年稿を元にしていますが、全体的に大きくカットされ、またオーケストレーションが改変されています。

楽器編成

フルート2（1888年稿ではフルート3、ピッコロ持ち替え1）、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ1（1874年稿では使用されない）、ティンパニ、シンバル（1888年稿のみ）、弦5部。

演奏時間

演奏時間は、演奏により差がありますが、全楽章通して、初稿が約72分で、第2稿が約66分と紹介した例もあります。

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