交響曲第6番 (ブルジョワ)

デリク・ブルジョワ：交響曲第6番『コッツウォルド交響曲』

デリク・ブルジョワ（Derek Bourgeois）によって1988年に作曲された管弦楽のための交響曲、交響曲第6番『コッツウォルド交響曲』（Symphony No. 6 A Cotswold Symphony）作品109は、イングランド中部から南西部にかけて広がる美しい丘陵地帯、コッツウォルズ地方の風景や雰囲気を音楽で表現した作品です。

この作品は、グロスターシャー州の主要都市の一つであるストラウドで開催される祭典のために委嘱されました。コッツウォルズの田園風景が主なテーマですが、単なる景色の描写に留まらず、この土地に根差した歴史や文化への言及も含まれています。

着想のエピソード

作曲家ブルジョワは、ストラウド祭典の理事であるモーリス・ブロードベントと共に曲の構想を練る中で、冒頭の音楽をどう始めるか思い悩んでいました。ある時、ブロードベントに連れられ、祭典会場近くの、イングランド西部を流れるセヴァーン川の河口付近まで見渡せるほどの高台を訪れた際、転機が訪れます。当時、その丘には深い霧が立ち込める秋の景色が広がっていましたが、その壮大で印象的な眺めを目の当たりにした瞬間、作品冒頭の音楽のアイデアが閃いたと伝えられています。

楽曲構成

本作は六つの楽章で構成されていますが、各楽章は間に切れ目を置かず、連続して演奏されます。全曲の演奏時間は概ね35分程度です。ブルジョワにとってニ長調は自然や田園風景を強く想起させる調性であり、この曲においても主要な主題をはじめ、作品全体で多用され、重要な役割を担っています。

各楽章には以下の標題が付されています。

1. パストラール：夜明け：グロスターの谷間から霧が晴れて
2. メイポール
3. ローマ軍の行進
4. 教会の鐘
5. 古い町：グロスター
6. 終章：パストラール

各楽章の内容

第1楽章 パストラール：夜明け：グロスターの谷間から霧が晴れて

霧に覆われたグロスター周辺の渓谷が描写されます。不協和音から始まり、ゆらめくような曖昧な旋律が奏でられる中で、それとは対照的に、最初は控えめに、やがて明確な形をとってニ長調の旋律が現れます。この旋律が作品全体の主要主題であり、後の楽章でも様々な姿で登場します。

第2楽章 メイポール

イギリスの伝統的なメイポールダンスを表現しています。円を描いて回る、あるいは飛び跳ねるような踊りの様子を描写。楽章はハ長調の華やかで軽快な主題で始まり、次第に壮大な音楽へと発展します。しかし、その陽気な雰囲気は突然暗転し、不穏で騒がしい響きとなり、そのまま次の楽章へ繋がります。

第3楽章 ローマ軍の行進

田園風景から一転し、かつてこの地に支配を敷いたローマ帝国の冷酷な軍隊の行進を描写します。低音域のぎこちない旋律で始まり、それが様々な楽器で繰り返されることで緊張感が高まります。次第に騒がしく力強い音楽となり、中盤でこの不穏な主題が終わると、行進曲風のリズムが現れますが、冷徹な雰囲気は保たれます。楽章の終わりでは再びぎこちない旋律が高音で現れ、テンポを上げて次の楽章へと切れ目なく進みます。

第4楽章 教会の鐘

この楽章の副題「As sure as God's in Gloucestershire」は、グロスターシャー出身の詩人アイヴァー・ガーニーの言葉からの引用です。副題の通り、儚く内省的な雰囲気が漂います。ベルやグロッケンシュピール、ピアノが3拍子で奏でる主題は、童話のディック・ウィティトンに登場する教会の鐘を連想させます。楽章中盤で鐘の響きが止むと静かになり、主要主題が回帰しますが、落ち着いた雰囲気は続きます。短い静寂の後に次の楽章へと続きます。

第5楽章 古い町：グロスター

作曲者がアイヴァー・ガーニーの詩から受けた印象を音楽にした楽章です。様々な旋律が現れる複雑な構成ですが、全体としては軽快で幸福感のある雰囲気が基調となっています。展開につれて行進曲風の性格を帯びてきますが、第3楽章のような冷徹さではなく、堂々と落ち着いた、イングランドの伝統的な威厳を感じさせる様子で描かれます。この行進曲の展開は、「nobilmente（高貴に）」という言葉を思い起こさせるとされます。楽章の最後でこの行進曲が終わり、主要主題が奏でられた後、終章へ移行します。

第6楽章 終章：パストラール

冒頭の楽章で提示された田園風景の主題が、壮大なフィナーレとして再び現れます。第1楽章と同じ旋律ですが、ここでは最高潮のダイナミクス（fff）で、輝かしく力強い響きをもって奏でられます。また、第3楽章のローマ軍の行進に似た旋律も登場しますが、冷酷さはなく、華麗なニ長調で堂々と表現され、作品全体を締めくくります。

吹奏楽版

管弦楽版の作曲から遅れて2000年には、作曲者自身の手による吹奏楽編曲版が作品109bとして出版されました。この版は、一般的な吹奏楽曲と比較して演奏時間が30分程度（約960小節）と長く、演奏には相当な技量が要求されます。特に金管楽器には幅広い音域に加え、極端な低音域や高音域でのダイナミクスを伴う演奏能力が求められる箇所が多々あります。旋律も音域、リズム、表現など、技術的に難易度の高い部分が多く見られます。

この吹奏楽版は、オランダのハファブラ・ミュージックから楽譜が出版されており、近畿大学吹奏楽部によって初演されました。音源としては、楽譜出版社からリリースされているノルベール・ノジー指揮、ギィデ交響吹奏楽団による録音や、日本国内では木村吉宏指揮、フィルハーモニック・ウインズ大阪による録音などがCDとして発売されています。

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