享保名物帳

享保名物帳について

享保名物帳（きょうほうめいぶつちょう）は、日本における刀剣を記載した貴重な書物であり、江戸時代の徳川幕府8代将軍徳川吉宗の命により、本阿弥家13代当主の本阿弥光忠とその一族によって編纂されました。この書物は、名刀274振を収録した一覧表であり、その名刀は日本の伝統と武士階級の象徴でもあります。

実際、享保名物帳は日本刀の研究において現在でも「名物」として知られる刀剣の基準となっています。ただし、残念ながら原本は火災などの影響で失われてしまい、今は写本しか存在しません。原本が編纂された時期の元号がそのまま後世の呼称として使われているため、実際のタイトルは不明であると言われています。

内容の概要

享保名物帳には、火災で失われた81振や後補版で追加された25振を含む274振の名刀が記載されています。これらの刀剣は、本阿弥家による格付けと出自の保証を受けており、江戸時代の武家社会において名刀を評価する際の重要な指針となりました。記録されている名刀の中には、戦国大名が愛用したものや、徳川家、加賀藩前田家、福岡藩黒田家などの著名な武士たちに伝わる逸話も多数含まれています。

記録された名刀中で特に有名なものは、正宗の刀59振（うち41振が現存し、18振が焼失）、粟田口吉光の刀34振（同様に16振が現存）、郷義弘の刀22振（11振現存）であり、これらは「名物三作」あるいは「天下三作」として多くの人々に知られています。しかし、名刀を所有していた大名家の中には、幕府に対する恐れから名刀を秘匿していた者もいるため、記載されていない名刀も少なくありません。例えば、大般若長光や幅広貞宗などは高い評価を受けるも、享保名物帳には記録されていないのです。

写本とその系統

原本が失われた後、享保名物帳の内容は数種類の写本や転写本として残されました。主に二つの系統に分けられ、ひとつは本阿弥家が幕府に提出した写しであり、これには「厚藤四郎」から始まる名刀のリストが含まれています。もうひとつの系統は、本阿弥家の調査記録を基にした控帳に基づき、名物「平野藤四郎」から始まるものです。このように、異なる性質を持つ2つの系統は収録される作品数や並び順が異なります。前者は「名物帳第1類」、後者は「名物帳第2類」と呼ばれ、幕末には第2類を基に第1類の内容を統合した「名物帳第3類」という写本も確認されています。

その他の関連資料

また、享保名物帳に関連する資料として「諸家名剣集」があります。これは、本阿弥光忠やその家族によって編纂されたもので、原本は現存していないものの、1719年に書写されたものなどが今に残っています。さらに1779年に本阿弥市郎兵衛の第1類に基づいた写本や、1913年に本阿弥光恕が追記した「詳註刀剣名物帳」なども発行されています。これらの資料は、享保名物帳に見られる名刀にまつわる歴史や伝承の理解を深めるための貴重な資料となっています。

享保名物帳は、日本刀の文化や歴史を理解するために不可欠な書物であり、日本の刀剣に対する深い思いを伝える重要な資料と言えるでしょう。

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