京王デハ1700形電車

京王デハ1700形電車：戦後を駆け抜けた異端の車両

京王デハ1700形電車は、戦後の混乱期に京王帝都電鉄（現：京王電鉄）井の頭線に登場し、その後京王線でも活躍した通勤形電車です。その出自は複雑で、戦災復旧という時代の要請に応えるために生まれた、まさに「異端」とも言える存在でした。

誕生の背景：戦災からの復興

1945年5月25日の空襲で、井の頭線の永福町検車区は壊滅的な被害を受けました。31両の在籍車両のうち24両が焼失し、深刻な車両不足に陥ったのです。そこで東急（当時）は、小田原線からの借入車や国鉄青梅線からの借入車で急場をしのぎつつ、本格的な復旧のために新型車両の投入を決定しました。

白羽の矢が立ったのは、当時製造中だった東横線用デハ3550形と湘南線用クハ5350形でした。これらの車両を転用し、それぞれデハ1700形、デハ1710形として井の頭線に投入することになったのです。

車両の概要：東急の設計思想を継承

デハ1700形は、1946年春に汽車製造で製造されました。車体は、東急3000系（初代）の設計思想を受け継ぎ、前面3枚窓や非貫通構造といった特徴を備えていました。しかし、製造メーカーが異なるため、細部には差異も見られました。

車体長は17m級で、側面の窓配置はd1D4D4D2。片隅式の運転台を持ち、乗務員室扉は左側のみに設置されていました。連結面側は切妻構造で、広幅貫通路を備えていましたが、当初は相手となる車両がいなかったため、締め切りとなっていました。

主要機器には、日立製作所製のMMC系主制御器とHS267系主電動機を搭載。電装品は1500Vに対応していましたが、歯数比が小さく、加速性能や牽引力は高くありませんでした。台車は、東横線の改軌計画を想定したKS-4と呼ばれる長軸車軸を備えたものが採用されました。

井の頭線での活躍：苦難の連続

デハ1700形は、1946年から順次井の頭線に投入されました。当初は1700形同士で編成を組んでいましたが、青梅線からの借入車の代替として、クハとして連結されることもありました。しかし、主電動機の出力不足が問題となり、歯車比の変更などの対策が講じられました。

1950年には、デハ1707が追突事故に遭い、車体更新を受けることになります。この際、運転台の全室化や乗務員室扉の増設など、大幅な改造が施されました。その後、他の車両も同様の改造を受け、使い勝手が向上しました。

1952年からは、井の頭線で3両編成運転が開始されました。デハ1700形は、デハ1800形やサハ1300形と連結され、3両編成の一員として活躍しました。しかし、出力不足の問題は依然として残っており、運用面での制約を受けました。

京王線への転用：第二の人生

1960年代に入ると、井の頭線には3000系が増備され、デハ1700形は余剰となりました。一方、京王線では昇圧後の輸送力増強が課題となっており、デハ1700形は京王線に転用されることになりました。

1966年、デハ1700形は京王線仕様に改造され、京王線にデビューしました。台車は改軌され、パンタグラフの撤去や中間車化などの改造も行われました。京王線では、4両編成や2両編成として、他の形式と連結して運用されました。

しかし、1972年には、京王線に6000系が導入されたことに伴い、デハ1700形は運用を離脱し、全車廃車となりました。

近江鉄道へ：最後の活躍

廃車後、デハ1707は近江鉄道に譲渡され、モハ204として新たな人生を歩み始めました。西武所沢工場で車体更新や両運転台化改造を受け、1973年に近江鉄道に入線しました。1980年には郵便荷物合造車モユニ11に改造されましたが、1984年の荷物輸送廃止に伴い休車となり、1990年に廃車されました。

廃車後も彦根駅構内に留置されていましたが、2004年に解体され、その生涯を終えました。

まとめ：時代に翻弄された車両

京王デハ1700形電車は、戦後の混乱期に生まれ、時代の要請に応えるために様々な路線を転々とした、まさに「時代に翻弄された車両」と言えるでしょう。その波乱万丈な生涯は、鉄道史に深く刻まれています。

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