京都高等蚕業学校
京都高等蚕業学校（きょうとこうとうさんぎょうがっこう）は、日本の旧制専門学校の一つです。大正3年（1914年）に設立されたこの学校は、その歴史の中で幾度か名称を変更し、昭和6年（1931年）には京都高等蚕糸学校、さらに昭和19年（1944年）には京都繊維専門学校（京都繊専）となりました。本項では、これらの改称後の学校に加え、その源流となった機関も含めて、その歩みをたどります。
この学校の前身は、明治32年（1899年）に農商務省によって設立された京都蚕業講習所でした。大正時代初期、この講習所は農商務省から文部省へと管轄が移され、それに伴って京都高等蚕業学校へと改編されました。これは広義には高等農林学校の一つと位置づけられます。
京都蚕業講習所時代には、蚕糸業の発展に資する教育と研究が行われました。設立当初の学科には本科（修業年限2年）や別科（同5ヶ月）が設けられました。明治34年（1901年）には、技師であった石渡繁胤がカイコ卒倒病菌を発見するという重要な研究成果を上げています。これは後にバチルス・チューリンゲンシスと正式に命名され、害虫駆除などに応用されることになります。明治35年（1902年）には養蚕講習科が設置され、本科の修業年限が2年に、別科が6ヶ月に変更されました。また、製糸講習科も設けられましたが、実際の授業は行われませんでした。明治38年（1905年）には本科が3年制となり、入学資格も中学校卒業程度に引き上げられ、旧制専門学校と同等の扱いとなりました。明治41年（1908年）には、蚕糸業に携わる女性の育成を目指して2年制の女子部が設置されています。
文部省への移管を経て、大正3年（1914年）4月1日に京都高等蚕業学校が誕生しました。この時点での本科は3年制、別科は6ヶ月制でした。大正4年（1915年）には女子部が廃止されました。大正9年（1920年）には本科に蚕種科が新たに設けられ、従来の本科は養蚕科と改称されました。別科も修業年限が1年に延長されました。この年からは、カイコの霊を慰めるためのBM祭が毎年春に行われるようになります。大正10年（1921年）には校歌「黄塵跡をとどめざる」が制定されました。大正12年（1923年）には嵯峨桑園が設置され、実習の場として活用されました。大正13年（1924年）には別科が養蚕実科と名を改めました。
昭和6年（1931年）2月、本科に製糸科が増設されたことに伴い、翌3月には学校の名称が京都高等蚕糸学校に変更されました。この時の本科の学科は、養蚕科、蚕種科、製糸科の三つとなりました。昭和9年（1934年）には室戸台風によって生物実験室が半壊する被害に見舞われました。昭和12年（1937年）には、製糸教育に携わる女性を養成するための製糸教婦科（修業年限2年）が設置されました。太平洋戦争中の昭和17年（1942年）には、繊維産業の多様化に対応するため、本科に繊維化学科が加わりました。
戦局が進む昭和19年（1944年）4月1日、学校は京都繊維専門学校と改称されました。この改称に合わせて学科体制も大きく再編・拡充され、本科には蚕糸科（養蚕専攻・製糸専攻）、繊維化学科、そして新たに繊維農業科が設けられたほか、福井高等工業学校から紡織科が移管されてきました。嵯峨桑園も嵯峨農場と改称されました。終戦後の昭和20年（1945年）には、製糸教婦科の修業年限が1年に短縮されました。昭和21年（1946年）4月には、蚕糸科が再び養蚕科と製糸科に分かれました。昭和22年（1947年）には紡績実習工場が完成し、教育・研究施設の拡充が進められました。しかし、昭和23年（1948年）3月には製糸教婦科が廃止されました。
戦後の学制改革の中、昭和23年（1948年）7月には、同じ京都市内にあった京都高等工芸学校（京都工専）と合同で、新制大学「京都工芸繊維大学」の設置認可申請が行われました。そして、昭和24年（1949年）5月31日、新制京都工芸繊維大学が発足しました。旧制京都繊維専門学校は、その繊維学部の主要な母体となり、養蚕学科、製糸紡績学科、繊維化学科として引き継がれました。大学本部は、工芸学部と繊維学部の中間地点に位置する旧生糸検査所に置かれました。旧制京都繊維専門学校は、新制大学への包括を経て、昭和26年（1951年）3月にその歴史に幕を下ろしました。
学校の校地は、前身である京都蚕業講習所から引き継がれた、当時の葛野郡衣笠村大字大将軍から花園村にかけての一帯（現在の京都市北区大将軍坂田町から右京区花園鷹司町付近）にありました。この「衣笠校地」は、改称後の京都高等蚕糸学校、京都繊維専門学校、そして新制大学発足後の京都工芸繊維大学繊維学部によって昭和43年（1968年）7月に京都市左京区松ヶ崎の工芸学部校地へ統合移転されるまで長く使用されました。現在、旧衣笠校地の跡地は花園団地となっており、その一角に、昭和53年（1978年）3月、京都工芸繊維大学衣笠同窓会によって「京都工芸繊維大学繊維学部発祥之地」と記された石碑が建立されています。
歴代の校長・所長として、講習所時代には松永伍作、石渡繁胤、川島勝次郎が、高等蚕業学校以降は川島勝次郎、山田登代太郎、村松舜祐、そして新制大学繊維学部初代学部長も務めた岡村精次らが学校を率いました。また、卒業生の中には、鳥取県境港市の初代市長となった足立実や、内務官僚として栃木県知事を務めた小川喜一など、各界で活躍した人物がいます。
同窓会は「衣笠同窓会」として、旧制卒業生と新制大学の旧繊維学部の卒業生を束ねて活動していましたが、平成18年（2006年）の工芸学部と繊維学部の統合（工芸科学部発足）に伴い、京都工芸繊維大学同窓会に統合されました。
京都高等蚕業学校とその流れを汲む学校群は、日本の近代的な蚕糸・繊維産業の発展を支える有為な人材を数多く育成し、その基盤確立に貢献しました。その精神と伝統は、後身校である京都工芸繊維大学に受け継がれています。
この学校の前身は、明治32年（1899年）に農商務省によって設立された京都蚕業講習所でした。大正時代初期、この講習所は農商務省から文部省へと管轄が移され、それに伴って京都高等蚕業学校へと改編されました。これは広義には高等農林学校の一つと位置づけられます。
京都蚕業講習所時代には、蚕糸業の発展に資する教育と研究が行われました。設立当初の学科には本科（修業年限2年）や別科（同5ヶ月）が設けられました。明治34年（1901年）には、技師であった石渡繁胤がカイコ卒倒病菌を発見するという重要な研究成果を上げています。これは後にバチルス・チューリンゲンシスと正式に命名され、害虫駆除などに応用されることになります。明治35年（1902年）には養蚕講習科が設置され、本科の修業年限が2年に、別科が6ヶ月に変更されました。また、製糸講習科も設けられましたが、実際の授業は行われませんでした。明治38年（1905年）には本科が3年制となり、入学資格も中学校卒業程度に引き上げられ、旧制専門学校と同等の扱いとなりました。明治41年（1908年）には、蚕糸業に携わる女性の育成を目指して2年制の女子部が設置されています。
文部省への移管を経て、大正3年（1914年）4月1日に京都高等蚕業学校が誕生しました。この時点での本科は3年制、別科は6ヶ月制でした。大正4年（1915年）には女子部が廃止されました。大正9年（1920年）には本科に蚕種科が新たに設けられ、従来の本科は養蚕科と改称されました。別科も修業年限が1年に延長されました。この年からは、カイコの霊を慰めるためのBM祭が毎年春に行われるようになります。大正10年（1921年）には校歌「黄塵跡をとどめざる」が制定されました。大正12年（1923年）には嵯峨桑園が設置され、実習の場として活用されました。大正13年（1924年）には別科が養蚕実科と名を改めました。
昭和6年（1931年）2月、本科に製糸科が増設されたことに伴い、翌3月には学校の名称が京都高等蚕糸学校に変更されました。この時の本科の学科は、養蚕科、蚕種科、製糸科の三つとなりました。昭和9年（1934年）には室戸台風によって生物実験室が半壊する被害に見舞われました。昭和12年（1937年）には、製糸教育に携わる女性を養成するための製糸教婦科（修業年限2年）が設置されました。太平洋戦争中の昭和17年（1942年）には、繊維産業の多様化に対応するため、本科に繊維化学科が加わりました。
戦局が進む昭和19年（1944年）4月1日、学校は京都繊維専門学校と改称されました。この改称に合わせて学科体制も大きく再編・拡充され、本科には蚕糸科（養蚕専攻・製糸専攻）、繊維化学科、そして新たに繊維農業科が設けられたほか、福井高等工業学校から紡織科が移管されてきました。嵯峨桑園も嵯峨農場と改称されました。終戦後の昭和20年（1945年）には、製糸教婦科の修業年限が1年に短縮されました。昭和21年（1946年）4月には、蚕糸科が再び養蚕科と製糸科に分かれました。昭和22年（1947年）には紡績実習工場が完成し、教育・研究施設の拡充が進められました。しかし、昭和23年（1948年）3月には製糸教婦科が廃止されました。
戦後の学制改革の中、昭和23年（1948年）7月には、同じ京都市内にあった京都高等工芸学校（京都工専）と合同で、新制大学「京都工芸繊維大学」の設置認可申請が行われました。そして、昭和24年（1949年）5月31日、新制京都工芸繊維大学が発足しました。旧制京都繊維専門学校は、その繊維学部の主要な母体となり、養蚕学科、製糸紡績学科、繊維化学科として引き継がれました。大学本部は、工芸学部と繊維学部の中間地点に位置する旧生糸検査所に置かれました。旧制京都繊維専門学校は、新制大学への包括を経て、昭和26年（1951年）3月にその歴史に幕を下ろしました。
学校の校地は、前身である京都蚕業講習所から引き継がれた、当時の葛野郡衣笠村大字大将軍から花園村にかけての一帯（現在の京都市北区大将軍坂田町から右京区花園鷹司町付近）にありました。この「衣笠校地」は、改称後の京都高等蚕糸学校、京都繊維専門学校、そして新制大学発足後の京都工芸繊維大学繊維学部によって昭和43年（1968年）7月に京都市左京区松ヶ崎の工芸学部校地へ統合移転されるまで長く使用されました。現在、旧衣笠校地の跡地は花園団地となっており、その一角に、昭和53年（1978年）3月、京都工芸繊維大学衣笠同窓会によって「京都工芸繊維大学繊維学部発祥之地」と記された石碑が建立されています。
歴代の校長・所長として、講習所時代には松永伍作、石渡繁胤、川島勝次郎が、高等蚕業学校以降は川島勝次郎、山田登代太郎、村松舜祐、そして新制大学繊維学部初代学部長も務めた岡村精次らが学校を率いました。また、卒業生の中には、鳥取県境港市の初代市長となった足立実や、内務官僚として栃木県知事を務めた小川喜一など、各界で活躍した人物がいます。
同窓会は「衣笠同窓会」として、旧制卒業生と新制大学の旧繊維学部の卒業生を束ねて活動していましたが、平成18年（2006年）の工芸学部と繊維学部の統合（工芸科学部発足）に伴い、京都工芸繊維大学同窓会に統合されました。
京都高等蚕業学校とその流れを汲む学校群は、日本の近代的な蚕糸・繊維産業の発展を支える有為な人材を数多く育成し、その基盤確立に貢献しました。その精神と伝統は、後身校である京都工芸繊維大学に受け継がれています。
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