人民公社 (東ドイツ)

東ドイツにおける国営企業「[人民公社]」

第二次世界大戦後、ソ連占領下のドイツ（後の東ドイツ）では、ソ連が接収した土地や工場の返還方法が大きな課題となりました。その帰趨を決めるため、ザクセン州では住民投票が行われ、[1946年]]6月30日の開票結果、3分の2以上の圧倒的多数で「[[人民公社]」という形態での返還が決定されました。

この決定を受けて、1946年7月1日、最初のVEB連合体(Vereinigung Volkseigener Betriebe, VVB)が2つ誕生します。一つはザクセン州の精密機械、光学、電子技術、写真、映画、事務機器産業を扱う連合体で、もう一つはイェーナを拠点とし、光学精密機器を扱う連合体です。後者の中核を担ったのは、世界的に名高い光学機器メーカー、カール・ツァイスでした。

VEBは東ドイツ経済の基盤となり、数多くの企業がその傘下に置かれました。国民車として知られるトラバントを製造したザクセンリンク(VEB Sachsenring)、ヴァルトブルクを生産したアウトモービルヴェルク・アイゼナハ(VEB Automobilwerk Eisenach)なども、VEBの代表的な企業です。これらの企業は、東ドイツの工業生産を支え、国民生活に深く関わっていました。

しかし、東ドイツ社会を徹底的に監視下に置いた秘密警察、[シュタージ]に関しては、VEBの中でも独特な存在感を示していました。[シュタージ]]は「盗み聞き・のぞき見[[人民公社]」という皮肉な俗称で呼ばれ、その活動は国民の不安と不信感を募らせる要因の一つとなりました。

VEBは様々な産業にまたがり、その規模と影響力は多岐に渡りました。以下に、東ドイツ経済を代表するVEB企業の例をいくつか挙げます。

VEB モトーレンヴェルク・アイゼナハ: 自動車製造
VEB BMK Kohle und Energie: 石炭・エネルギー
VEB Braunkohlenwerk Gustav Sobottka Röblingen: 褐炭鉱山
VEB Deutsche Musikaliendruckerei: 楽譜印刷
VEB ドイツ・シャルプラッテン: レコード製造
VEB Deutsche Seereederei: 海運
VEB Elbewerften Boizenburg/Roßlau: 造船
VEB Fahrzeug- und Gerätewerk Simson Suhl: モーターサイクル、自転車製造
VEB フィルムファブリック・ヴォルフェン: 映画フィルム製造
Hochseeschiffbau Mathias-Thesen-Werft Wismar VEB: 造船
VEB Jehmlich Orgelbau Dresden: オルガン製造
VEB Lokomotivbau Karl Marx Babelsberg （LKM）: 機関車製造
VEB Lokomotivbau Elektrotechnische Werke Hans Beimler Hennigsdorf （LEW）: 機関車、電気機器製造
VEB Meissen Porzellan: 陶磁器製造
VEB Motorradwerk Zschopau: モーターサイクル製造
VEB Polytechnik: 精密機器製造
VEB Planeta: カメラ、双眼鏡製造
VEB ロボトロン: コンピュータ製造
VEB Sachsenring Automobilwerke Zwickau: 自動車製造
VEB Typoart: 印刷
VEB Uhrenwerke Ruhla: 時計製造
VEB Volkswerft（シュトラールズント）: 造船
VEB バルカス　カール＝マルクス＝シュタット: 船舶製造
Kombinat VEB Zeiss Jena: 光学機器製造

これらのVEBは、東ドイツの経済発展に貢献した一方、計画経済特有の非効率性や、政治的干渉による問題を抱えていました。VEBの盛衰は、東ドイツ社会の複雑な側面を反映しており、冷戦時代の社会主義経済を理解する上で重要な事例となっています。

参考文献

竹田正一郎 『ツァイス・イコン物語』 光人社、ISBN 978-4-7698-1455-9

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