人民海軍

人民海軍（Volksmarine）：東ドイツの海

人民海軍（ドイツ語: Volksmarine, VM）は、ドイツ民主共和国（東ドイツ）における海軍であり、地上軍（LaSK）および航空軍（LSK）と共に国家人民軍を構成した軍種の1つです。冷戦時代、バルト海を主な作戦水域とし、ソ連[[海軍]]を支援する役割を担いました。

歴史

創設

第二次世界大戦後、ソ連の占領下にあった東ドイツでは、1950年にソ連軍将校によって海上警察本部が設置されました。1952年には海上人民警察（Volkspolizei See, VP-See）と改名され、海軍の基礎が築かれます。

発展

1956年3月1日、国家人民軍が設立されると、海上人民警察は海上戦力（Seestreitkräfte）と改名されました。1960年10月19日には、ドイツ民主共和国国防評議会の決定により、海上戦力は人民海軍（Volksmarine）と改名されました。名称は、1918年のキール軍港における水兵の反乱に由来します。

人民海軍は、東ドイツ各地の造船所で大型艦船の建造を開始しました。沿岸巡視艇や高速戦闘艇などの小型艦艇はソ連からの貸与品が多く、支援艦艇の一部はポーランド製でした。搭載火器もソ連製が多数を占めていました。

1961年8月13日のベルリンの壁建設に伴い、国境警察（Grenzpolizei）がドイツ民主共和国国境警備隊（Grenztruppen der DDR）に再編され、沿岸警備隊相当の沿岸国境旅団（Grenzbrigade Küste,GBK）も人民海軍の指揮下に入りました。

1965年、人民海軍は大規模な再編成を行い、全ての突撃戦力（高速戦闘艇部隊）を第6艦隊（6. Flottille）に組み込みました。1970年代には、総戦力はおよそ18,000人に拡大しました。1980年代には艦船装備の一部が更新され、1985年にはソ連製の戦闘爆撃機などを装備する第28海軍航空団（Marinefliegergeschwader 28,MFG-28）が新設されました。

1986年から1988年にかけて、オーデル湾周辺の国境地帯でポーランド海軍との小規模な衝突が発生し、最終的に東ドイツ側の要求が受け入れられました。

解体

1990年10月2日のドイツ再統一に伴い、人民海軍は国家人民軍と共に解体されました。一部の兵士は連邦海軍に残留を許されましたが、装備・機材の多くは売却または廃棄されました。主力艦艇の一部はインドネシア海軍に売却されました。

西側への脱走

東ドイツ崩壊までの間、人民海軍の将兵が海路で西側へ脱走を試みる事件がいくつか発生しました。国境警備艇による脱出、乗組員が海に飛び込む、艦を乗っ取ろうとする計画などがありましたが、多くは未遂に終わっています。

任務

人民海軍は、ワルシャワ条約機構のバルチック艦隊（Ostseeflotten）に参加し、バルト海におけるソ連[[海軍]]の支援と沿岸防衛を主な任務としていました。駆潜艇、高速戦闘艇、掃海艇、揚陸艇といった小型艦艇が主力であり、高い即応性を維持していました。NATO側の海軍に対する偵察活動や、電子戦装備を備えた情報収集艦の運用も行っていました。

また、第6沿岸国境旅団は不法出入国の監視という特殊な任務を担っていました。

組織

人民海軍は、3つの艦隊を常時待機させる体制を採っていました。解散時には、第1艦隊、第4艦隊、第6艦隊、第6沿岸国境旅団などが存在しました。

その他、魚雷技術中隊、海軍ヘリコプター航空団、海軍航空団、工兵大隊、水中戦闘コマンドー、通信連隊、沿岸ロケット連隊、沿岸防衛連隊、宣伝中隊、無線電子戦大隊、弾薬集積所、燃料及び潤滑油集積所、修理基地、教育所、科学技術センター、海洋水路局、保安小隊といった部隊が存在しました。

教育機関

人民海軍には、下士官兵を教育する「ヴァルター・シュテフェンス」艦隊学校、士官を教育する「カール・リープクネヒト」士官学校、後方要員を育成する下士官学校などの教育機関がありました。

人民海軍司令官

人民海軍の最高責任者は人民海軍司令官であり、平時にはロストック・ゲールスドルフの人民海軍司令部で指揮を執り、有事にはテッシン指揮所に移動しました。

装備

人民海軍は、各種揚陸艇、機雷敷設艦艇、掃海作業用艦艇、魚雷艇、ミサイル艇、沿岸警備艇、対潜駆逐艦、情報収集艦、訓練艦、各種支援艦、ヘリコプター、戦闘爆撃機などを保有していました。個人装備としては、AK-47などの小銃や潜水装備がありました。

人民海軍は、短い期間ながらも東ドイツの海を守り、冷戦下におけるバルト海の安全保障に貢献しました。その歴史は、東ドイツという国家の歩みと共に語り継がれています。

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