人間の塔

カステイ：カタルーニャの伝統と技の結晶

スペインのカタルーニャ地方で200年以上続く伝統行事、カステイ（Castells）。カタルーニャ語で「城」を意味するこの行事は、人間の塔を築き上げる迫力あるパフォーマンスで知られ、カタルーニャの民族的象徴として深い歴史と文化を誇ります。

カステイの歴史と起源

カステイの起源は、バレンシア地方の伝統的な踊り「Ball dels Valencians」に遡ると考えられています。17世紀にカタルーニャ南部で人気を博し、タラゴナ周辺で祭りなどで披露されるようになりました。教会からの禁止令にもかかわらず、その人気は衰えることなく、18世紀後半にはタラゴナ近郊のバルスで独自の進化を遂げ、現在のカステイへと発展しました。その後、カタルーニャ全土に広がり、現在では60を超えるチームが活動し、フランスや中国にも広がる国際的な行事となっています。2年に一度、タラゴナで開催される競技会では、各地のチームがその技を競い合います。2010年には、ユネスコ無形文化遺産に登録され、その文化的価値が世界的に認められました。

カステイのモットーは「Força（力）」、「Equilibri（バランス）」、「Valor（勇気）」、「Seny（知恵、共通意識）」の4つ。これらの要素が全て揃うことで、高度なパフォーマンスが実現すると考えられています。

カステイのパフォーマンス

カステイのパフォーマンスは、まず下部の基礎部分「pinya（ピーニャ）」の構築から始まります。人間の隙間なく配置されたピーニャの上に、次々と人間が積み上げられていきます。地上から数段積み上がった段階で、さらに上に積み上げるかどうかの判断が行われます。不安定な場合は、安全を優先して解体が開始されます。この判断は、チームリーダーや各部分の責任者が下します。積み上げが続行されると、バンドが伝統的な音楽を奏で始めます。音楽はチームによって独自のアレンジが加えられることもあります。

全ての構成員が所定の位置に登ると、最後にアンチャネータ（enxaneta）と呼ばれる子供が塔の頂上に登頂します。アンチャネータが両手を着き、片手を挙げる合図（aleta）を行うと、組み上げ成功（carregat）となります。競技会では、アレータは順位決定に用いられる場合もあります。その後、塔は逆の手順で解体され、全ての構成員が安全に地上に降りれば、解体成功（descarregat）となります。

服装と構造

カステイの構成員（castellers）は、白いズボンとチームカラーのシャツを着用します。腰や背中を守るための長い布製のベルト「faixa」は、他の構成員のための足場としても重要な役割を果たします。2006年以降、塔の上部に登る子供たちは安全のためヘルメットを着用することが一般的となり、口内怪我防止のためマウスピースを装着する場合もあります。

カステイの難易度は、塔の段数と1段あたりの人数で表されます。例えば「3de8」は、1段3人で8段の塔を意味します。ピーニャは3人以上で構成されますが、中心部分は3人と数えられます。安定したパフォーマンスのためには、ピーニャを構成するメンバーの役割も重要です。彼らは塔が崩れた際の衝撃を和らげる役割も担い、時には塔の上部の人員よりも深刻な怪我を負うこともあります。ピーニャは、必ずしも同一チームのメンバーだけで構成されるわけではなく、他のチームのメンバーや観客が協力することもあります。

非常に高い塔を作る際には、「folre（フォルラ）」、「manilles（マニーリャス）」、「puntals（プンタルス）」といった構造が追加されることもあります。これらの構造は、技の名称に必ず含まれます。例えば、「3de10 amb folre i manilles（3d10fm）」は、フォルラとマニーリャスを含む3人10段の塔を表します。

上部の3段（Pom de dalt）は特殊な構造です。基本的には、上から3段目は2人（dosos）、その上に2人の子供が重なり、一番上がアンチャネータとなります。1段あたりの人数が多い場合は、この基本構造が複数作られます。

内部に更に1本の塔（Pilar）を作る技は「amb agulla（アム　アグリャ）」と呼ばれます。外部の塔の組み上げと同時に内部の塔が組み上げられ、アンチャネータが2回アレタする高度な技です。

特殊な組み上げ方法として「per sota」があります。これは、塔の上部を先に作り、下から持ち上げる方法で、通常の組み上げよりも難易度が高いとされています。

カステイとカタルーニャ

カステイは、カタルーニャの文化と深く結びついています。カタルーニャの国家記念日である9月11日には、街の象徴的な場所でカステイのパフォーマンスが行われることが多く、カタルーニャ独立運動とも結び付けられることもあります。カステイは、様々なイベントや式典でも披露され、カタルーニャ社会に深く根付いた文化行事となっています。メンバーの死を悼む際には、音楽なしでカステイを行う「pilar de dol」という儀式が行われます。

カナーリャス：未来を担う子供たち

高い塔を作るためには、体重の軽い女性と子供たちの役割が重要です。子供のメンバー「カナーリャス（canalles）」は、チームのマスコット的存在であり、将来のチームを担う重要な存在です。カナーリャスは、カステイの活動以外にも様々な活動を通して、地域社会との繋がりを育んでいます。

カステイは、老若男女が参加する地域社会の重要なコミュニティでもあります。世代を超えた絆と伝統の継承、そして高度な技と勇気が融合したカステイは、これからもカタルーニャの誇りとして、人々を魅了し続けることでしょう。

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