人間椅子 (江戸川乱歩)

人間椅子

『人間椅子』（にんげんいす）は、江戸川乱歩によって1925年に発表された短編小説で、スリラーおよびエログロナンセンスに分類される作品です。この物語は、特に日本の文学において強烈な印象を残し、多くの映像作品や舞台でも取り上げられています。乱歩が特異な視点から人間の欲望や恐怖を描写した本作は、椅子の中に潜む男という異常な設定を通じて、心理的な緊張感を生み出しています。

作品の発表背景と影響

1916年に創刊されたプラトン社の大衆娯楽誌『苦楽』の1925年9月号に初めて掲載された『人間椅子』は、乱歩が短編者として活動を始めた大正時代の作品であり、その後、1926年1月に刊行された『屋根裏の散歩者』第二巻で書籍としても発表されました。本作は、従来の探偵小説からエログロナンセンスへと作風をシフトする足掛かりとなり、乱歩自身が希望していた本格探偵小説の枠を超えて、あらゆるメディアに影響を与えることになりました。

乱歩は、その年に他の作品も発表しており、すでに『D坂の殺人事件』『心理試験』『赤い部屋』などの短編小説を手掛け、このジャンルで評価を高めていました。そんな中で本作は、彼の思いもかけない成功を収め、読者の心を掴むことになります。

あらすじ

物語の舞台は、外交官の妻である佳子という女性作家の書斎です。彼女の日常は、夫を見送った後、手紙やファンレターを読みつつ創作活動に没頭する生活です。ある日、彼女の元に「私」と名乗る男から一通の手紙が届きます。この手紙は彼が犯した罪を告白する内容で、彼は椅子職人としての苦悩と異常な欲望を語ります。

「私」は周囲から蔑まれ、貧しい生活を強いられていましたが、椅子作りの技術には定評がありました。ある日、外国人客向けの椅子を作成する際、好奇心からその椅子の中に隠れることを決意します。椅子がホテルに運ばれると、彼は昼はその中に隠れ、夜は外に出て盗みを働くようになります。そして他者に座られることで、快感を覚えるようになります。

彼は外国人少女との触れ合いに喜びを見出しますが、次第に日本の女性に対する強い欲望が芽生えていきます。その後、椅子は古道具屋と呼ばれる店に売却され、新たに日本人の夫人に所有されることに。椅子の中から彼女を見つめるうちに、彼女に自分の思いを伝えたいと願うようになります。この想いがもとに彼は、彼女に手紙を書くことを決意します。

しかし佳子の手元にもまた、同じ筆跡の封書が届いており、画面は恐怖のクライマックスへと向かいます。

映像作品としての展開

『人間椅子』はその後、多数の映画やテレビドラマ、舞台作品として再創作されています。1997年と2007年には、それぞれ異なる監督による映画が公開され、特に1997年版は各方面から好評を博しました。また、テレビドラマも様々な形で放送され、国内外の観客を魅了しています。

結論

『人間椅子』は、江戸川乱歩の短編小説の中でも特に特異な味わいを持ち、後の日本のホラーやサスペンス文学に大きな影響を与えることになりました。多様な作品へと展開する根源となったこの作品は、文学的に、またその心理描写の深さにおいても今後の読者に新たな恐怖や感情をもたらし続けることでしょう。

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