心理試験

心理試験

江戸川乱歩による短編小説『心理試験』は、1925年に発表された作品で、明智小五郎シリーズの一環として位置づけられています。この作品は、探偵小説雑誌『新青年』に掲載されたものであり、特に犯人の視点から描かれる倒叙形式が特徴です。乱歩が心理学に強い関心を持っていたことが、作品の根底に影響を与えています。

成立背景

乱歩は心理学の分野に興味を持っており、特にドイツの心理試験についての著作を読み、探偵小説のストーリーを考案しました。『新青年』の連続掲載企画において、この『心理試験』は『D坂の殺人事件』に続く二作目であり、半年間にわたって発表された短編小説シリーズの中心を形成しています。

あらすじ

作品は、貧しい大学生の蕗屋清一郎が主人公です。彼は親友の斎藤勇から、下宿先の老婆が巨額の金を持っていることを知ります。蕗屋は、将来的に自分がその金を使った方が意義があるのではないかと考え、老婆を殺害して金を奪う計画を立てます。

彼は慎重に計画を練り、実行に移すことになります。しかし、事が進むにつれ、斎藤が犯人の疑いをかけられることになり、その事件を担当するのは心理テストの権威である笠森判事です。犯罪者の心を読み取るための心理テストに直面し、蕗屋は対策として練習を重ねます。彼は完璧にテストをこなすことができるのですが、その完璧さが却って疑念を呼び起こします。

明智小五郎が事件に関与し、探偵としての特技を発揮しながら蕗屋との駆け引きを繰り広げます。明智は蓄積された証拠の中に、蕗屋の隠された真実を探し当て、物語はスクリーンの裏で繰り広げられる心理的な攻防に進行していくのです。

登場人物

• - 蕗屋 清一郎: 本作の主人公で苦しい学費稼ぎを強いられている大学生。老婆の資産を狙う冷静さを持つ。
• - 斎藤 勇: 蕗屋の親友で、彼の計画に関与してしまう同級生。
• - 老婆: 多額の金を持つ人物で、蕗屋の計画の犠牲となる存在。
• - 笠森判事: 心理学の知識を持つ若手の予審判事。
• - 明智 小五郎: 名探偵として知られ、物語のキーとなるキャラクター。

トリック

本作のトリックは、ドストエフスキーの『罪と罰』を基にしています。物語の中で明智は老婆の部屋にあった屏風の傷について問題にし、蕗屋の証言に矛盾があることを見抜きます。明智の巧妙な質問によって、蕗屋は追い詰められていくのです。

評価と影響

この作品は発表直後から高い評価を受け、乱歩はこの成功を機に作家としての専業を決心したと語っています。また、松本清張も本作に感銘を受けたと公言しています。一部の評論では、明智の追及の仕方が心理的であり厳密ではないため、作品を純粋な本格探偵小説とは呼べないとも指摘されています。

映像化作品

『心理試験』は映画化やアニメ化もされており、特に1946年に制作された大映の映画『パレットナイフの殺人』が有名です。さらに、2016年にはNHK BSプレミアムでドラマ化され、その際には原作に忠実な形で朗読・演技が行われました。明智小五郎を満島ひかりが演じ、注目を集めました。

『心理試験』は、江戸川乱歩の知的な根底と心理描写が融合した傑作として、今なお愛されています。

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