人間魚雷回天 (映画)

映画『人間魚雷回天』の詳細解説

1955年に公開された新東宝製作の映画『人間魚雷回天』は、太平洋戦争末期に開発された特攻兵器「回天」を題材にした戦争ドラマです。監督は松林宗恵、脚本は須崎勝彌が務め、主演は岡田英次と木村功が演じました。

制作の背景

本作は、元海軍中佐で海軍予備学校教官だった津村敏行の著書『人間魚雷回天』を原作としています。脚本を担当した須崎勝彌も元海軍予備士官であり、監督の松林宗恵も元海軍士官という、制作者たちが実際に海軍に所属していたという点が大きな特徴です。長年、会社の方針に従った企画を撮り続けた松林監督にとって、本作は唯一自ら企画した映画と言われています。

物語の構成

物語は、回天特別攻撃隊菊水隊の隊員たちを主人公とし、1944年秋から始まります。訓練、出撃前夜、そして出撃という三つの部分で構成されています。映画は、学徒兵の悲劇を描いた作品群の一つであり、『きけ、わだつみの声』や『雲ながるる果てに』といった作品と並び、戦争の悲惨さを伝えています。

ストーリー

物語は、珊瑚礁の海底に横たわる朽ちかけた回天から始まります。艇内に刻まれた「十九年十二月十二日　一五三〇　我未ダ生存セリ」という文字が、過去の出来事を暗示します。

菊薫る秋、回天搭乗員に選ばれた予備士官たちは、死を覚悟しながらも日々訓練に励んでいます。既に多くの仲間を失い、計器の不備による事故で岡田少尉が殉職。残された彼らは、岡田の遺影の前で母校の校歌を歌い、その「娑婆っ気」を海軍兵学校出身の陣之内大尉に激しく叱責されます。

出撃に失敗し帰還した村瀬少尉は、再び出撃の機会を与えられたことに複雑な思いを抱えています。朝倉少尉は、訓練中に自ら操縦する回天が海底に沈んでしまうというアクシデントに見舞われますが、自力で脱出し生還します。生を実感した彼は、「生きてるってことは文句なしに素晴らしいぞ」と仲間に語りかけますが、その直後に出撃命令が下されます。

出撃前夜、朝倉は宿舎で世話係の一人である田辺と出会います。田辺は元大学教師で、朝倉の大学の先輩であることを知り、二人は最後の夜を語り合います。朝倉は、無謀な戦いを無謀なものと気づかせるために、自らが死んでいくのだと語り、カントの言葉で自身の心境を表現します。玉井は、婚約者との最後の時間を過ごし、それぞれの思いを胸に出撃の朝を迎えます。

登場人物

• - 玉井少尉（木村功）：回天搭乗員の一人。婚約者との別れに苦悩する。
• - 朝倉少尉（岡田英次）：回天搭乗員の一人。生と死について深く考える。
• - 岡田少尉（和田孝）：訓練中の事故で殉職。
• - 村瀬少尉（宇津井健）：二度の出撃失敗に苦悩する。
• - 陣之内大尉（高橋昌也）：海軍兵学校出身の士官。予備士官を厳しく指導する。
• - 田辺一水（加藤嘉）：朝倉の世話係。元大学教師。
• - 真鍋早智子（津島恵子）：玉井の婚約者。

映画の特徴

本作は、兵学校出身者と予備士官との間の意識の断絶を浮き彫りにしています。特に、「娑婆っ気」という言葉を通して、死を覚悟しながらも生を求める人間の葛藤が描かれています。また、特攻という極限状態の中で、登場人物たちがそれぞれ抱える不安や葛藤が、深く描かれている点が特徴です。

評価

公開当時、本作は概ね好評を得ましたが、脚本の稚拙さや演出の粗さが指摘されました。しかし、絶望的な状況下での登場人物たちの心の機微を捉えた演技や、ラストシーンの演出は高く評価されています。特に、朝倉艇とイ号潜水艦の対比は、主人公の孤独感と虚しさを際立たせ、観る者に深い印象を与えました。

その他の情報

本作は、VHS、DVDなどの映像ソフトが発売されています。また、映画関係者が毎年集まり、撮影当時を偲ぶ会を開いていたというエピソードも残っています。

まとめ

『人間魚雷回天』は、戦争の悲惨さと、死を前にした人間の複雑な感情を描いた作品です。特攻隊員の悲劇を単に描くだけでなく、生と死の意味を問いかける作品として、今なお多くの人々に影響を与えています。

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