仁井田益太郎

仁井田益太郎：日本の法学を支えた知性

仁井田益太郎（1868年11月18日 - 1945年1月17日）は、明治・大正・昭和期に日本の法学界を牽引した、著名な法学者、裁判官、そして弁護士です。彼は、法学博士の学位を持ち、京都帝国大学と東京帝国大学という、当時を代表する二つの大学で教授を務めました。

生涯と業績

仁井田は、守山藩士の家に生まれました。東京帝国大学卒業後、富井政章のもとで民法典の起草補助委員として活躍し、ドイツ民法草案の翻訳や各国の法制度調査を通じて、民法典編纂に大きく貢献しました。彼が他の起草補助委員と共同で執筆した『帝国民法正解』は、民法典施行後に最初に刊行された書籍の一つであり、ドイツ法学の視点から民法を解説した重要な文献として評価されています。

京都帝国大学では民事訴訟法と商法、東京帝国大学では民事訴訟法、民法、ドイツ法を担当し、後進の育成に尽力しました。

民法典成立に関する独自の視点

仁井田は、民法典起草に関わった当事者として、当時の状況について貴重な証言を残しています。彼は、民法典論争を、穂積陳重らが主張したような高尚な学問的対立ではなく、仏法派と英法派の勢力争いに過ぎなかったと捉えていました。

また、日本法におけるフランス民法とドイツ民法の影響について、旧民法の修正という形でドイツ法の思想が取り入れられたと分析しつつも、親族法や相続法においては日本の慣習が色濃く反映されていると指摘しました。そして、日本民法のドイツ法的解釈傾向については肯定的な立場を示しました。

人となりとエピソード

仁井田は、学者としては珍しく社交性に富んだ人物であった一方で、文章は一本調子であったというエピソードが残っています。我妻栄は、仁井田の著作について、大著の抜き書きに過ぎず、回りくどい文体に苦労したと回想しています。

また、学生時代には、彼の独特な文体を揶揄した学生がいたという逸話も残っています。この学生は、後に作家となる三島由紀夫の父、平岡梓でした。

その後

弁護士としても活動し、東京第二弁護士会の会長も務めました。没後、多磨霊園に埋葬されました。

著書

『帝国民法正解』（共著）
『民法修正案理由書』（共著）
『民事訴訟法要論 上中下巻』
『民事訴訟法一班』
『民事訴訟法大綱』
『親族法相續法論』
* 『民法総論第1冊』

仁井田益太郎は、日本の法学の発展に大きく貢献しただけでなく、その人となりやエピソードを通じて、後世に語り継がれる存在です。

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