令嬢ジュリー (映画)

令嬢ジュリー

1951年にスウェーデンで制作された映画『令嬢ジュリー』（原題：Fröken Julie）は、劇作家アウグスト・ストリンドベリの著名な同名戯曲を、アルフ・シェーベルイが監督・脚色した作品です。この映画は、スウェーデン王室演劇場出身の俳優陣を主要キャストに迎え、同年のカンヌ国際映画祭において最高賞であるグランプリ（現在のパルムドールに相当）を受賞する快挙を成し遂げました。国内では、1952年度のキネマ旬報ベストテンで外国映画の第6位に選ばれています。

作品概要

物語の舞台は夏の夜。主人公は、広大な領地を持つ伯爵の娘、令嬢ジュリーです。彼女は奔放な性格で、身分違いの下男ジャンを誘惑します。ジャンはかつて農夫の息子でしたが、今は伯爵に仕える有能な使用人であり、料理女のクリスチンと婚約しています。真夏の夜の熱狂と錯乱の中で、ジュリーとジャンの間に禁断の愛憎劇が繰り広げられます。階級社会における抑圧、人間の欲望、そして破滅へと向かう運命が、濃密な心理描写と共に描かれます。

キャスト

主要な役柄には、スウェーデン王室演劇場所属の実力派俳優たちが起用されました。

ジュリー（貴族の令嬢）: アニタ・ビョルク
ジャン（下男）: ウルフ・パルメ
伯爵カウント（ジュリーの父）: アンデルス・ヘンリクソン
クリスチン（ジャンの婚約者である料理女）: メルタ・ドルフ
ヴィオラ（ジャンに想いを寄せる下女）: インガ・ジル

スタッフ

監督・脚色: アルフ・シェーベルイ
原作戯曲: アウグスト・ストリンドベリ
撮影: イエラン・ストリンドベルイ
美術: ビビ・リンドストロム
音楽: ダグ・ヴィレーン

制作背景

監督のアルフ・シェーベルイは、本作を制作する以前の1949年に、同じくストリンドベリの戯曲『令嬢ジュリー』を舞台で演出し成功を収めていました。この舞台版では、ウルフ・パルメがジャン役を、インガ・ティドブラッドがジュリー役を演じています。映画版では、パルメを含む多くの舞台版出演者が続投しましたが、ジュリー役については変更がありました。舞台版で理想的な解釈を示したとされるティドブラッドは当時すでに50歳に近く、より若年のアニタ・ビョーク（撮影当時27歳）へと主役が交代されました。ビョークは、シェーベリが求める役柄に当初は戸惑いを感じていたようですが、特に舞台版にはなかった屋外での撮影シーンにおいて、役柄が自分自身に深く馴染む感覚を得たと伝えられています。

撮影は1950年の4月28日から7月18日にかけて行われました。サンドリューのスタジオを中心に、ストックホルム近郊の様々な場所でロケーション撮影が実施され、ダラロ、ストーラ・ヴェスビー城、ドロットニングホルム宮殿公園などが使用されました。

受賞と評価

本作は公開と同時に高い評価を獲得しました。

アルフ・シェーベルイ監督は、第4回カンヌ国際映画祭で最高賞であるグランプリを受賞しました。シェーベリはこれ以前にも『もだえ』（1944年）で同賞の前身にあたる国際審査員賞を受賞しており、カンヌの最高賞を受賞した最初のスウェーデン人監督となりました。この記録は、2017年にルーベン・オストルンドが『ザ・スクエア』でパルムドールを受賞するまで、長らく唯一のものでした。

また、本作は1952年に英国アカデミー賞の最優秀作品賞にもノミネートされています。

公開後の批評家の評価は、時代や批評家によって分かれました。1987年、ニューヨーク・タイムズ紙のウォルター・グッドマンは映画に対して批判的な立場を取り、主演のアニタ・ビョルクの演技を「求められる感情の変化に戸惑っているようだ」と評しました。一方で、2000年にガーディアン紙のフィリップ・フレンチはアニタ・ビョルクの演技を「忘れられないジュリー」と回想しています。2008年にはエンターテインメント・ウィークリー誌のティム・パーテルが本作を「驚くべき」映画と称賛し、ビョルクの「熱狂的な演技」を高く評価しました。クライテリオン・コレクション版DVDのレビューにおいて、スチュアート・ヘンダーソンは、この映画が古典劇に「刺激的な自由」を与え、「深く心を奪われる」作品に仕上がっていると論じました。2015年の映画ガイドで、著名な映画評論家レナード・マルティンは本作に星3つを与え、「素晴らしい演技と撮影」を称賛しています。

エピソード

本作の撮影を担当したイエラン・ストリンドベリは、原作者である劇作家アウグスト・ストリンドベリの親族にあたります。

また、本作でのアニタ・ビョルクの演技は、著名な映画監督アルフレッド・ヒッチコックの目に留まりました。ヒッチコックは、自身の監督作『私は告白する』（1953年）の主演に彼女をオファーしたと言われています。しかし、恋人スティグ・ダガーマンと赤ん坊を伴って渡米したビョークに対し、製作会社のワーナー・ブラザース社長ジャック・L・ワーナーが難色を示し、最終的にアン・バクスターが代役を務めることとなりました。

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