仮装集団

『仮装集団』: 政治と音楽の交差点

山崎豊子の長編小説『仮装集団』は、1966年から1967年にかけて朝日新聞社の週刊誌「週刊朝日」に連載され、その後文藝春秋から単行本が発行されました。本作は、音楽団体内部の複雑な人間関係と、政治的影響を描くことにより、時代背景や社会状況への鋭い洞察を示しています。

小説の概要

物語は、大阪にある勤労者音楽同盟（略して勤音）を舞台に展開します。この団体に所属する流郷正之は、音楽に情熱を持つ一方、同僚たちが秘密裏に行っているフラクション会議に疑いを抱く主人公です。流郷は、音楽以外にも目を向けなければならない現実に直面し、やがて政治の裏側に翻弄されていく様子が描かれています。

本作では、登場する「人民党」が日本共産党をモデルにしていることが推測されます。実際、執筆当初に共産党への取材が行われていたことも、後のあとがきで触れられています。また、勤音は架空の団体であり、対立する自由音楽連盟（音連）も現実の組織を背景に創造されています。ただし、作家本人は模倣の意図を明確に否定しています。

登場人物たち

大阪勤労者音楽同盟

• - 流郷正之: 本作の主人公であり、音楽の情熱家。ニヒルな性格で、組織作りに参加することになる。
• - 江藤斎子: 財政部門の責任者で、東京から大阪に転任したばかり。
• - 大野泰造: 組織の委員長。
• - 瀬木三郎: 事務局長で、流郷を勤音に誘った。
• - 永山: 組織の担当者。

自由音楽連盟

• - 門林雷太: 日東レーヨン社長で、音楽と美食を愛する風貌の持ち主。勤音に対抗する目的で音連を設立。
• - 野々宮: 音連の事務局長。
• - 黒金: 総務部長。
• - 島田一男: 音連の会員で、他所での嫌がらせが騒動に発展する。

東京勤労者音楽同盟

• - 鷲見: 東京側の事務局長。

その他、音楽やビジネスに関わる様々なキャラクターが物語を彩ります。特に、流郷と彼の周囲の人物の交流を通じて、音楽持つ力とその裏に潜む社会的な問題が浮き彫りになります。

音楽の役割

本作では、多くのクラシック音楽作品が言及されています。プッチーニやショスタコーヴィチの楽曲が重要な場面に用いられており、音楽が登場人物たちの心情を表す手段となっています。これらの音楽は、物語の進行とともに、登場人物たちの葛藤や成長を深める役割を果たしているのです。

結び

『仮装集団』は、山崎豊子の作品の中でも特に、ドラマ化や映画化が行われていない珍しい一作です。本作の中で描かれる集団とそのダイナミクスは、政治の力を背景に持つ人々の複雑な運命を深く掘り下げており、読者に強い印象を与えます。山崎はこの作品を執筆する際に「書きにくい小説だった」と語っており、彼女の苦悩の中に描かれたメッセージは、今もなお多くの人々に響き続けています。

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