仮面の正体

キッス『仮面の正体』：変革期の光と影

『仮面の正体』（Unmasked）は、1980年にキッスが発表した8枚目のスタジオ・アルバムです。前作『地獄からの脱出』の成功を受け、プロデューサーにヴィニ・ポンシアを再起用し、ポップ路線をさらに推し進めました。しかし、商業的な成功は前作を下回り、バンドの方向性が模索される時期の作品として位置づけられています。

制作の背景

オリジナル・ドラマーのピーター・クリスは、実際には本作のレコーディングに一切参加していません。前作でも代役を務めたアントン・フィグが全曲でドラムを担当しています。クリスの不参加は、バンド内の不協和音を象徴する出来事であり、彼にとって在籍中に発表された最後のアルバムとなりました。ジャケットは、ポール・スタンレーの発案によるアメリカン・コミックス風のデザインで、「キッスの素顔に迫る」というコンセプトでしたが、メンバーからの評価は分かれました。

音楽性と収録曲

収録曲は、ジェラルド・マクマホンの「イズ・ザット・ユー?」を除く10曲がオリジナルで、ヴィニ・ポンシアが8曲で共作者として名を連ねています。アルバム全体として、キャッチーなメロディとポップなアレンジが際立っており、徹底的に売れ線を狙った意図が感じられます。しかし、期待されたほどの商業的成功には至らず、売り上げは前作を下回りました。

「シャンディ」はシングル・ヒットを記録しましたが、その勢いは長続きしませんでした。この曲のプロモーションビデオ撮影後、クリスはバンドを脱退。アルバム発売後のツアーは、新メンバーのエリック・カーを迎えて行われましたが、比較的短期間で終了しました。

収録曲についていくつか特筆すべき点があります。

イズ・ザット・ユー? (IS THAT YOU?)：ポール・スタンレーがリード・ヴォーカルを担当。
シャンディ (SHANDI)：ポール・スタンレーがリード・ヴォーカルとリードギターを担当。オーストラリアで大ヒットし、現在でも定番曲として演奏されています。
トーク・トゥ・ミー (TALK TO ME)：エース・フレーリーがリード・ヴォーカル、リズムギター、ベースギターを担当。シングル・カットされました。
裸の街 (NAKED CITY)：ジーン・シモンズがリード・ヴォーカルを担当。都会的な雰囲気が特徴的な楽曲です。
傷だらけの素顔 (EASY AS IT SEEMS)：ポール・スタンレーがリード・ヴォーカルを担当。「ラヴィン・ユー・ベイビー」と同様のディスコ調サウンドが取り入れられています。
トーピード・ガール (TORPEDO GIRL)：エース・フレーリーがリード・ヴォーカル、リズムギター、ベースギターを担当。当初のタイトルは"Tokio Girl"でしたが、変更されました。

まとめ

『仮面の正体』は、キッスの歴史において、ポップ路線への転換とメンバーの交代という、大きな変化が起きた時期の作品です。商業的な成功は限定的でしたが、その音楽性は後のキッスのサウンドに影響を与え、現在でも評価されています。また、ピーター・クリス在籍最後のアルバムとして、ファンにとっては特別な意味を持つ作品と言えるでしょう。

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