仲田紀夫

仲田 紀夫（なかだ のりお）は、1925年（大正14年）8月9日にこの世に生を受け、2021年（令和3年）5月15日にその生涯を閉じた日本の数学教育者です。長年にわたり埼玉大学で教鞭を執り、同大学の教授を務めました。また、別名「道志洋」としても知られています。

現在の東京都千代田区である東京市に生まれた仲田氏は、教育者としての道を歩みます。1948年に東京高等師範学校数学科を卒業した後、1954年には東京教育大学教育学科で学びを深めました。教職のキャリアは、東京大学教育学部附属中学校・高等学校の教諭として始まり、その後、埼玉大学教育学部の教授に就任。さらに、1987年から1990年にかけては埼玉大学教育学部附属中学校の校長を務め、教育実践総合センター所長としても活躍しました。

仲田氏の活動は、単なるアカデミックな数学教育に留まりませんでした。彼は、数学が抽象的な学問であるだけでなく、人間社会や日常生活と密接に関わるものであるという視点から、「社会数学」という概念を提唱し、その普及に努めました。また、国内外を旅しながら数学の歴史や文化を探求する「数学旅行」という独自のスタイルを確立し、数学をより身近で魅力的なものとして紹介しました。これらの活動は、数多くの著作として結実しています。

仲田氏の著書は非常に多岐にわたります。数学教育に関する専門書はもちろんのこと、中学生や保護者向けの解説書、そして一般読者向けの啓蒙書が多数を占めます。特に注目すべきは、パズルやトリックを通じて数学的思考を養うもの、日常生活や社会現象の中に潜む数学を探るもの、そして世界の歴史や文化と数学を結びつけた「数学旅行」シリーズです。「アメリカ数学旅行」に始まり、「万里の長城で数学しよう 中国編」、「ピラミッドで数学しよう エジプト、ギリシア編」、「ピサの斜塔で数学しよう イタリア編」、「タージ・マハールで数学しよう インド編」、「グリニッジ天文台で数学しよう イギリス・ドイツ編」、「エッフェル塔で数学しよう フランス編」、「イスタンブールで数学しよう」、「東海道五十三次で数学しよう」など、旅先での具体的な事例を通して数学の原理を解説するこれらのシリーズは、数学を学ぶことの楽しさを伝えています。

また、「無限の不思議」、「数学トリック」、「確率」、「統計」、「座標幾何」、「和算」など、数学の様々な分野を分かりやすく解説したブルーバックスシリーズや、道志洋名義で刊行された「道志洋博士のおもしろ数学再挑戦」シリーズも、氏の啓蒙活動の成果と言えるでしょう。彼の著作は、数学が単なる計算や公式の暗記ではなく、思考力や発想力を養う面白さに満ちた学問であることを、幅広い読者層に伝え続けました。パズルやクイズ形式を取り入れたり、身近な事例を豊富に紹介したりするなど、読者が楽しみながら数学に触れられる工夫が凝らされています。

長年の数学教育への貢献が認められ、日本数学教育学会の名誉会員にも推されました。仲田紀夫氏は、教育者、研究者、そして稀有な数学啓蒙家として、生涯をかけて数学の普及と発展に尽力した人物です。彼の残した著作は、今なお多くの人々に数学への扉を開くきっかけを与え続けています。

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