伊奈信男

伊奈信男の生涯と業績

伊奈信男（いな のぶお）は、日本における写真評論の重要な存在として、1898年3月31日に愛媛県松山市で生を受けました。彼は東京大学文学部美学美術史学科を卒業し、戦前から写真に関わる活動を始めました。特に1932年に創刊された写真雑誌「光画」では、その同人の一員として積極的に関わり、写真の本質や社会的な意義についての論考を発表しました。

新興写真と社会性

「光画」の創刊号に掲載された彼の論文「写真に帰れ」は、日本における新興写真の成立を宣言するものであり、写真作品が持つべき社会性を強調した内容でした。この論文は、戦後の日本における報道写真の重視と、それに対する芸術的写真の排除を説明する重要な要素となりました。写真というメディアが社会に与える影響についての伊奈の見解は、その後の写真評論に大きな影響を与えました。

戦後の活動

第二次世界大戦後、伊奈は写真に関する様々な評論や著作を発表し、平凡社の『世界写真全集』の企画などを手がけました。これにより、彼の視点はさらに広がり、多くの人々に影響を与えることとなります。また、日本写真協会の理事やニコンサロン名誉館長などの役職も歴任し、写真界に多大な貢献をしました。1976年には、彼の名前を冠した「伊奈信男賞」がニコンによって設けられ、若手写真家の奨励にも寄与しました。

評論集の刊行

これまで、彼の評論や論文は書籍としてまとめられることが少なく、研究者は古い雑誌を探し出す必要がありました。しかし、2005年には「写真に帰れ―伊奈信男写真論集」が刊行され、彼の主要な論考が一堂に収められたことにより、より多くの読者に彼の思想が伝わるようになりました。この論集には、52編の論考が掲載されており、戦前から戦後にかけての日本の写真界の変遷を鋭く捉えています。

主な著作

• - 写真・昭和五十年史（朝日新聞社、1978年）
• - 写真に帰れ―伊奈信男写真論集（平凡社、2005年）

前者は昭和50年の日本の写真史を振り返ったものであり、後者には写真の本質や社会との関わりについての深い洞察が収められています。特に論集の目次には、口絵や発刊に際しての江成常夫の寄稿、写真における様々なテーマへの考察が含まれており、伊奈の多角的な視点が光ります。

伊奈信男の影響

伊奈信男は、写真というメディアの持つ力を真剣に考察した評論家であり、彼の業績は今日の写真界においても重要な意義を持っています。彼の思想や作品は、今なお多くの人々に愛され、影響を与え続けています。彼の功績を認識し、今後もその影響が広がることを願います。

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