伊川津貝塚

伊川津貝塚（いかわづかいづか）

伊川津貝塚は、愛知県田原市伊川津町に位置する、縄文時代後期から晩期にかけての大規模な貝塚です。三河湾に面した標高2メートルの礫堆上にあり、神明社の境内を中心に東西約180メートル、南北60メートルの半円形に広がっています。

概要

この貝塚は、スガイやアサリなど、主に鹹水性の貝が多く見られるのが特徴です。1903年に大野延太郎によってその存在が報告されて以降、大正時代には小金井良精、鈴木尚、大野雲外、柴田常恵、大山柏、清野謙次といった多くの学者によって発掘調査が重ねられました。これらの調査によって、これまでに合計で200体近い人骨が出土しています。

出土した人骨の中には、日常生活では考えにくい痕跡を持つものも存在し、鈴木尚は縄文人同士の争いや食人風習があった可能性を指摘しています。また、叉状研歯を伴う多数の抜歯風習を示す人骨も見つかっています。その他、甕棺などの土器や土偶、耳飾、石刀、石棒、石冠、勾玉、各種の骨角器など、多様な遺物が出土しており、当時の生活様式や文化を知る上で貴重な資料となっています。特に、1904年に発見された有髯土偶は、人種論争を引き起こしたことで知られています。

2008年から2010年、そして2013年には、農業集落排水工事に伴い発掘調査が実施され、新たに14体の人骨と25体分のイヌの骨が検出されました。

人骨のゲノム解析

金沢大学の覚張隆史特任助教授らの研究グループが、コペンハーゲン大学を中心とした国際研究チームと共同で調査を行った結果、縄文晩期の成人女性の人骨のゲノム配列が、約8千年前の東南アジア（ラオスとマレーシア）の遺跡から出土した古人骨と類似していることが判明しました。この調査における縄文人の全ゲノム配列の解読は、世界初の成果とされています。

参考文献

伊川津貝塚編集委員会1972『伊川津貝塚』渥美町教育委員会
泉拓良「伊川津遺跡」『日本史大事典 1』（平凡社 1992年） ISBN 978-4-582-13101-7
小林青樹「伊川津遺跡」『日本歴史大事典 1』（小学館 2000年） ISBN 978-4-095-23001-6

関連項目

縄文時代の遺跡一覧
* 日本の貝塚一覧

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