伊江島事件

伊江島事件とは

1974年7月10日、沖縄県伊江島にある伊江島補助飛行場において、痛ましい事件が発生しました。在日米軍の演習が終了した後、20歳の男性が草刈りのために飛行場敷地内に入ったところ、米兵によって車で追い回され、信号銃で銃撃を受けて負傷するという事態に見舞われたのです。この事件は、後に「伊江島事件」として知られることとなります。

事件発生後の動き

事件発生直後から、沖縄県議会は強い抗議の意を示し、7月25日には「米兵による日本青年狙撃事件に関する抗議決議」を可決しました。しかし、事態は複雑さを増していきます。7月29日、米軍側は加害者に公務証明書を発行したのです。この公務証明書の発行は、日米地位協定第17条の規定に深く関わっており、裁判権がどちらに属するのかという重大な問題に発展しました。

日米合同委員会での協議の結果、日本政府はアメリカ側に裁判権を認めるという苦渋の決断を下しました。翌年5月7日、加害米兵には降格処分と罰金刑が言い渡されましたが、被害者に対する補償は一切行われませんでした。この決定は、沖縄県民の間で大きな不満と失望を招くこととなりました。

外務省の見解

1975年5月7日、衆議院外務委員会において、当時のアメリカ局長であった山崎敏夫氏は、裁判権を放棄した理由を説明しました。その主な内容は以下の通りです。

事件を未解決のまま放置することは、加害者の処罰と被害者の救済の観点から問題がある。
加害者の行為は、それほど悪質なものではないと判断された。
アメリカ政府は、事件についてその立場を説明しており、適切な措置が取られると判断できる。
米側は事件発生を遺憾とし、再発防止に努める。
公務証明書の発行は誤解を招いたと認識。
加害者に対する処罰手続きを行い、結果を日本側に報告する。
被害者に対しては補償を行う。
事件解決の遅延は、日米友好関係の維持の観点からも好ましくないと判断した。

さらに、同年5月22日、宮澤喜一外務大臣（当時）は、衆議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会で、同様の判断に基づき事件の早期解決が日米関係にとって重要であると強調しました。外務省は、事件を早期に解決することで、加害者の処罰と被害者の救済、そして日米関係の維持を目指したと説明しました。

日米地位協定との関連性

事件は、日米地位協定第17条が定める裁判権の問題を浮き彫りにしました。外務省の機密文書でありながら、琉球新報が独自に入手し高文研から刊行された「日米地位協定の考え方・増補版」には、この伊江島事件に関する言及があります。この文書は、日米地位協定の解釈をめぐる複雑な問題を指摘しており、事件が日米間の外交問題に発展した背景を物語っています。

結論

伊江島事件は、在日米軍の存在と日米地位協定がもたらす問題点を如実に示す出来事でした。事件は、被害者に対する十分な補償がなされないまま、米軍の裁判権下で処理され、多くの人々に深い傷跡を残しました。この事件を教訓に、日米地位協定の見直しや、在日米軍関係者の行動に対するより厳格な管理が求められるという声は、今日においても根強く存在しています。伊江島事件は、私たちに、国際関係と人権という普遍的な価値について改めて考えさせる重要な事件なのです。

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