伊甘神社

伊甘神社は、島根県浜田市下府町に鎮座する神社です。創建は貞観三年（861年）と伝えられ、石見国庁跡であるとも言われています。古くは式内社として朝廷からの崇敬を受け、明治時代には村社に列せられました。現在は宗教法人神社本庁に属しています。

祭神

主祭神は天足彦国押人命（あまたらしひこくにおしひとのみこと）で、古代石見地方を開拓した小野族の遠祖とされています。この神は、地域の発展に大きく貢献したとされ、住民から厚く信仰されています。

また、溝咋姫命（みぞくいひめのみこと）を祭神とする説もあります。『石見八重葎』には、御衣織姫命（みぞおりひめのみこと）の名があり、「天豊足柄姫妹御衣織姫命」とされています。郷土史家の大島幾太郎は、『那賀郡史』において、抓之姫（つめひめ）が紡績、機織の神様であり、下府における溝織姫は御衣織姫の意であると述べています。

歴史

『三代実録』貞観十一年（869年）の条には、「石見国従五位下勲七等伊甘神授従五位上」とあり、朝廷からの位階が授けられたことが記されています。この記述からも、伊甘神社が古くから重要な神社として認識されていたことがわかります。

伊甘神社の社名の由来については、甘水の湧き出る地であったとする説と、古代にこの地を開拓した猪甘部（いかいべ）に由来するという説があります。猪甘部は、この地域の開発に携わった氏族であり、その名が神社名に残ったと考えられています。

境内には、府中神社（石見国総社）が合祀されています。府中神社は、石見国全体の神々を祀る神社であり、伊甘神社に合祀されたことで、より広範な信仰の対象となりました。この合祀は、地域の神社信仰の中心としての伊甘神社の重要性を示しています。

伊甘神社は、豊かな自然に囲まれた場所に鎮座しており、参拝者は静寂の中で神聖な雰囲気を感じることができます。神社の周辺には、古代の遺跡や史跡も点在しており、歴史散策を楽しむこともできます。また、地域住民にとっては、心のよりどころとして、日々の生活に深く根ざした存在となっています。

参考文献

式内社研究会編『式内社調査報告 第二十一巻 山陰道４』皇学館大学出版部、1983年
谷川健一編『日本の神々―神社と聖地 第七巻 山陰』白水社、 1985年
石見地方未刊行資料刊行会編『角鄣経石見八重葎』石見地方未刊行資料刊行会、1999年
大島幾太郎『那賀郡史』1970年

外部リンク

* 玄松子の記憶

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