伊皿子貝塚

伊皿子貝塚（いさらごかいづか）

伊皿子貝塚は、東京都港区三田4丁目、現在のNTTデータ三田ビル敷地にあった縄文時代後期の貝塚を中心とする複合遺跡です。この地は、かつて三井家の邸宅があった場所としても知られています。

概要

伊皿子貝塚は、規模こそ大きくはありませんが、貝の種類が非常に豊富であること、そして貝層の密度が濃いことで、日本有数の貝塚として知られています。発掘調査の結果、貝層の下からは貝塚が形成される以前の時代の土器が、上からは縄文時代晩期の土器が見つかりました。さらに、弥生時代以降の遺構も発見されており、この場所が貝塚として利用された時期だけでなく、長い期間にわたって人々の生活の場であったことが明らかになっています。これらの異なる時代の遺物が出土することから、伊皿子貝塚遺跡として一括りにされることもあります。

貝塚自体は、NTTのビル建設に伴い完全に破壊されましたが、建設前の1978年から1979年にかけて、1年半に及ぶ本格的な発掘調査が行われました。その際、貝層の断面が剥離保存され、近くの三田台公園に伊皿子貝塚遺跡として復元・展示されています。また、港区立郷土歴史館には、伊皿子貝塚の貝層断面や出土品が展示されています。

位置

貝塚は、JR田町駅と品川駅の中間地点、やや田町駅寄りの高輪台地上に位置していました。標高約11メートルの東向き斜面に位置し、縄文時代の縄文海進期には、高輪台地は南西から北東に伸びる台地であり、東側は東京湾に、北から北西は古川（渋谷川）、西側は低地となっていました。伊皿子貝塚は、高輪台地の東側に位置し、東京湾に直接面していました。港区内には多くの縄文遺跡が存在しますが、その多くは古川沿いにあり、東京湾に直接面していた縄文遺跡は多くはありません。港区内の遺跡は弥生時代から古墳時代にかけて減少する傾向にあります。

貝塚の認知と状態

太平洋戦争終結までは、貝塚は伊皿子三井家の邸宅敷地内にあり、1921年には考古学者である藤枝隆太郎によって貝塚の存在が確認されました。しかし、1924年には邸宅の洋館建設のため、貝塚の南側が十分な調査が行われないまま破壊されたと考えられています。戦災によって三井邸が破壊された後、貝塚は荒廃していきましたが、北側部分は日本家屋であったため比較的良い状態で保存されていました。戦後、この土地はセント・メリーズ・インターナショナル・スクールを経て、日本電信電話公社の所有となり、ビル建設が決定されました。そのため、1978年7月から1979年12月まで、約1年半に及ぶ本格的な発掘調査が、日本電信電話公社の費用負担で行われました。調査後、出土品や一部貝層が保存されましたが、ビル建設に伴い、貝塚および遺跡は完全に破壊されました。

貝塚概要

貝塚の南側は調査が行われないまま破壊されたため、全貌は不明な点も残されていますが、1978年7月から1979年12月にかけての調査では、北側で約351平方メートルの貝層が確認され、最も厚い部分では1.8メートルに達しました。

初期の調査では、縄文時代前期の土器片が採取されたことから、貝塚は縄文時代前期のものと考えられていましたが、後の本格的な調査で、貝層下から称名寺式期の竪穴建物跡が発見されたことや、放射性炭素による年代測定、堀之内式土器の発掘などから、貝塚そのものは縄文時代後期のものであると訂正されました。ただし、貝層の上下から異なる時代の遺構や土器が出土しており、この地での人々の営みは縄文前期から後期、弥生、古墳、平安時代にまで及んでいたことが示唆されています。

出土品

伊皿子貝塚の出土品の特徴は、他の貝塚と比較して、貝の種類が非常に豊富である一方で、獣魚骨や土器、石器の出土が少ないことです。巻貝が67種類、二枚貝が15種類、合計82種類もの貝が見つかっており、内湾に面した貝塚としては非常に珍しい例です。

食用とされていた貝は10種類ほどで、量的にはハイガイとマガキが全体の80％を占めています。ハイガイは暖かい海に生息する貝で、現代の東京湾では見られませんが、縄文時代には豊富に産出していたと考えられます。貝層はハイガイが多い層とマガキが多い層が重なっており、それぞれ採取時期が異なっていたと考えられています。

魚はクロダイの鱗が最も多く、他にウナギなど約20種類の魚骨が見つかっていますが、貝の豊富さに比べると少なめです。獣の骨はさらに少なく、イノシシの歯などがわずかに見つかっています。土器や石器の出土も少なく、それぞれ99点、8点に過ぎません。

遺構

貝層の上下からは、建物跡や墓跡などが見つかっています。貝層下から発見された敷石住居跡は縄文時代後期初頭、土壙は縄文時代後期前葉のものと推定されています。貝層上からは、古墳時代の建物跡3軒、平安時代の建物跡1軒、弥生時代の方形周溝墓2基が見つかっています。

貝塚の考察

伊皿子貝塚では、出土品のほとんどが貝殻であり、動物骨や土器、石器の出土が少ないことから、人々の生活の痕跡があまり見えません。そのため、この場所は生活の場ではなく、貝の加工場跡であった可能性が指摘されています。大量の貝を加工し、干し貝などの交易品を生産していたと考えられています。

保存

1978年7月から1979年12月までの本格調査後、貝塚はビル建設のために完全に破壊されました。しかし、当時最新の技術であった「接状剥離法」を用いて貝層断面の一部が保存されました。この剥離保存された貝層は、三田台公園内や港区立郷土歴史館で見ることができます。また、出土品の一部も港区立郷土歴史館で展示されています。

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