伊藤友玄

伊藤友玄

伊藤友玄（いとう ともはる、文禄3年（1594年） - 明暦元年4月25日（1655年5月30日））は、江戸時代初期に常陸水戸藩に仕えた武士です。通称は玄蕃（げんば）として知られています。水戸徳川家において重要な役割を果たした家臣の一人であり、その生涯は藩政に深く関わっていました。

生涯

慶長8年（1603年）8月、徳川家康の十一男である徳川頼房が伏見城で誕生した際、友玄は家康の近習として選ばれ、10歳という若さで伏見城に上がって頼房に仕えることになります。彼は「伏見衆」と呼ばれる、水戸徳川家の中でも最も古参の家臣の一人でした。

友玄は200石で小姓となり、その後、小姓頭、書院番頭、大番頭と昇進を重ねます。寛永3年（1626年）には老中、寛永14年（1637年）には水戸藩で最初の大老となり、2,100石（与力同心を合わせて3,000石）を知行しました。寛永17年（1640年）には、徳川光圀の傅（ふ、補導役）の一人にも選ばれています。

承応元年（1652年）11月21日、友玄の江戸小石川の屋敷にて、松平頼常（光圀の子で、光圀の兄である松平頼重（高松藩初代藩主）の養子となり、高松藩の第2代藩主となる）が誕生しました（後述）。

明暦元年（1655年）4月25日、友玄は62歳で死去しました。家督は、外祖父の養子となっていた三男の三木之昌が伊藤家に戻り、伊藤玄蕃友次と名を改めて相続することになりました（後述）。

系譜

祖父は友祐で、玄蕃と号しました。伊藤家に残る『伊藤系図』によれば、友祐は武田信玄に仕え、武田勝頼が最期を迎えた天目山の戦い（天正10年（1582年）3月）で討死にしたとされています。水戸藩の編年史書である『水戸紀年』（石川清秋著）は、この記述を踏まえ、友玄は『甲陽軍鑑』に登場する伊藤玄蕃の子孫ではないかと推測しています。

父は清重で、永禄5年（1562年）生まれ。父の討死後、越前に移り、後に越前松平家の祖となる結城秀康に仕えました。『水府系纂』には「清重ト云、越前ニ住シ秀康卿に仕フ」とあります。寛永13年(1636年)1月25日に75歳で死去し、法名は唯宗です。

母の名は不詳。永禄12年（1569年）生まれ。慶長13年(1608年)9月10日に40歳で死去し、法名は祐齋道明です。

妻は志保（しほ、性善院）。三木之次と頼房の乳母である武佐の娘です。慶長4年（1599年）生まれ。

子には5男7女がいました。長男は三木之次の養嗣子となった三木高之。次男は友貞（継嗣と目されていましたが、家督相続前に死去）。三男は友次（初め三木之次の養子で三木之昌、家督を相続し改名）、四男は甚十郎（早世）。五男は友親（別家を立てる）。六女は林羅山の四男である林読耕斎に嫁ぎました。

兄は祐了で、文禄2年（1593年）生まれ。越前徳勝寺の住持を務めました。寛文2年(1662年)11月24日に70歳で死去。

弟の友近も水戸藩に仕え、『水府系纂』には「玄蕃ノ弟ナルヲ以テ慶長年中二百石ヲ賜フ」とあります。慶長6年(1601年)生まれ。友近の次男である友清（庄次郎）は、松平頼重に仕えました。『高松藩士由緒録』（高松市歴史資料館所蔵）には、その子孫として「伊藤文之進」が記載されています。

松平頼常誕生との関わり

承応元年（1652年）、水戸藩の継嗣であった25歳の光圀は、側近くに仕えていた侍女弥智（親量院）との間に子を懐妊しました。しかし、兄の子を跡継ぎとするため男子を望まなかった光圀は、この子を堕胎するよう伊藤友玄に命じます。史料には若干の違いがあるものの、友玄は光圀の兄である松平頼重に相談し、頼重が生まれた子を引き取ることに。伊藤友玄の江戸小石川の屋敷で秘密裏に男子が誕生し、高松へ送られて成長しました。

瀬谷義彦は『新装水戸の光圀』で、「こうして見ると、三木家が光圀の出生を実現させ、その隣家であり、しかも三木之次の娘を妻とした伊藤玄蕃が、光圀の子の頼常の誕生を助けたというのは、いかにも不思議な因縁話のような気がするが、これは、高松の方に伝わる話でも大筋において変わりがないので、事実とみてさしつかえあるまい。」と述べています。

友玄の後継者たち

明暦元年(1655年)に友玄が死去すると、三男の友次（当時は三木之昌、22歳）と五男の友親（18歳）のどちらを後継者とするかで藩内で問題となりました。『水府系纂』の友親の項には、藩主・頼房と世子・光圀の間で意見の相違があったことが記されています。友玄の遺命である「友親に継がせたい」という意向を光圀が支持し、頼房にその実現を願ったものの、頼房は「兄である之昌（友次）が継ぐべきだ」という考えを変えなかったといいます。最終的には、友親が自ら身を引き、之昌が家督を相続しました。

『桃蹊雑話』にもこの話が載っており、光圀が友玄の継嗣が定まらないことを憂い、家臣を介して友玄の意向を聞いたところ、友玄は「（家に残っている）友親としたい」と答えたとされています。しかし、頼房は「之昌は兄であるから、之昌を嗣とすべきだ」と主張し、光圀が友玄の遺命を伝えても聞き入れなかったといいます。

伊藤友次とその子孫

寛永11年（1634年）生まれ。42歳で生まれた子であったため、三木之次の養子となっていました。友玄の死後、頼房の命により伊藤家に戻り、書院番頭、大番頭などを経て、大老、家老となりました。元禄3年（1690年）に家督を譲りました。

伊藤友親とその子孫

寛永15年(1638年)生まれ。友玄死去の時、伊藤家に残っていた唯一の男子でした。光圀が藩主となると、小姓に召し抱えられ、大老となりました。元禄14年(1701年)に隠居し、正徳4年(1714年)に死去。

伊藤友玄は、水戸藩の初期において重要な役割を果たした人物であり、その子孫もまた、水戸藩士として活躍しました。

参考文献

「水戸紀年」『茨城県史料　近世政治編Ⅰ』茨城県編、1970年、436頁
『水戸市史　中巻（一）』水戸市編、1968年、164頁
『水府系纂』第1巻（茨城県立歴史館で閲覧）
鈴木暎一『徳川光圀』吉川弘文館、2006年

関連項目

* 関思恭 - 伊藤友玄の弟・友近の孫。書家。墓碑銘に伊藤氏の出身であることが記されている。

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