伊藤吉和

伊藤吉和：建設官僚から府中市長、そして農家へ

伊藤吉和氏は、1959年（昭和34年）4月2日生まれの元日本の建設官僚、そして元政治家です。広島県府中市において助役を1期務めた後、第7代府中市長として3期12年にわたり市政を担いました。政界を引退した現在は、農家として新たな道を歩んでいます。

学歴と建設省でのキャリア

1983年に千葉大学工学部建築工学科を卒業し、さらに学びを深め、1986年には千葉大学大学院を修了し、工学修士の学位を取得しました。同年、建設省（現在の国土交通省）に入省し、キャリアをスタートさせました。建設省では、住宅局や大臣官房など、主要な部署を歴任し、建築・都市計画分野での専門知識と行政経験を積みました。

1993年には国土庁大都市圏整備局の特別整備課課長補佐を務め、広域的な都市計画に関与しました。1995年には鳥取県へ出向し、土木部建築課長や住宅課長を兼任するなど、地方自治体での実務経験も積みました。その後、1998年には建設省住宅局住宅整備課課長補佐として再び中央省庁での職務に戻りました。

府中市助役、そして市長への道

1999年、伊藤氏は建設省からの出向という形で、広島県府中市の助役に就任しました。当時、府中市には既に菅波次郎助役がいましたが、伊藤氏は二人目の助役として、主に建設関連の分野を担当しました。助役を1期務めた後、16年にわたり市長を務めた橘高泰司氏が任期満了での引退を表明しました。これを受け、当時の府中市における左派勢力に対抗するため、亀井静香氏の勧めもあり、伊藤氏は市長選挙への立候補を決意します。

3期にわたる府中市政：同和行政の見直しと都市再構築

2002年の府中市長選挙において、伊藤氏は「同和行政の見直し」を主要な争点として掲げました。当時の府中市政は、特定団体への過度な配慮から行政の活力が失われ、市民の間にも閉塞感が広がっていると指摘されており、2000年度の一般会計における同和対策費は11億5300万円に上っていました。伊藤氏の掲げた同和対策の見直し政策は市民の支持を集め、選挙では圧倒的な勝利を収めました。同時に行われた市議会議員選挙でも、伊藤氏を支持する候補者が多数当選し、定数24人中14人を占める「平成クラブ」という会派が組織され、市政運営における協力体制が築かれました。

伊藤市政下では、同和対策関連予算の大幅な縮小、特定団体による公民館の占拠状態の解消、そして特定団体との関係性を見直すなど、長年の懸案であった同和行政の改革が断行されました。また、行政コスト削減のため、市内の保育所の統廃合も実施されました。

都市基盤整備にも力を入れました。府中中心部の再開発を進め、老朽化した小中学校の耐震化率は100％を達成。市庁舎を含む公共施設の耐震工事も実施しました。中心市街地活性化事業として、お祭り広場周辺や、歴史ある出口地区の石州街道沿いの観光整備を行いました。さらに、第2次中心市街地活性化事業として、府中駅南側に「道の駅びんご府中」や「府中市地域交流センター（キテラスふちゅう）」などの整備計画を推進しました。

医療問題では、上下市民病院での医師不足に対し、府中市民病院との一体的な運営を打ち出すことで対応を図りました。交通インフラに関しては、陳腐化が進んでいた市内の道路網改善のため、扇橋の架け替えや南北道路の計画整備、市内循環バスの運行などを行いました。懸案事項であった桜ケ丘団地の販売促進のためには、民間の建築会社と連携し、値引き販売を進める施策を実施しました。

これらの政策遂行により、伊藤氏は2006年、2010年の市長選挙で再選を果たし、3期12年にわたり府中市長を務め上げました。

4期目挑戦での落選とその影響

2014年、伊藤氏は4期目を目指して市長選挙に立候補しましたが、新人の戸成義則氏に敗れました。この敗北について、当選した戸成氏は、伊藤氏が3期目の終盤に公表した特別職の給与引き上げ案を市民が受け入れなかったことが原因だと分析しました。伊藤氏自身も、結果は予想外であり、市民に必要とされなくなったと受け止めると語りました。給与問題については、長年低い水準で推移しており、景気回復を機に同規模自治体の水準に是正したものであり、確信を持って行ったことに後悔はないと述べました。

しかし、伊藤氏を破って当選した戸成氏は、給与増額条例を否決すること以外に明確な政策を持たず、また、伊藤氏を支持していた会派「平成クラブ」から造反して立候補したため、議会との関係が良好ではありませんでした。副市長を置くこともできず、市長の問責決議案が可決されるなど、その後の4年間の市政は停滞を招いたとされています。

政界引退後の活動

市長を退任した後、伊藤氏は農家へと転身しました。2020年6月時点では、梅、アンズ、すもも、柿、プラム、キウイフルーツなどの柑橘類を中心とした果樹園を営んでいました。さらに2021年5月からは、主食となるコシヒカリを栽培する米農家としても活動しています。2023年2月現在では、地域の農業振興に貢献するため、農事組合法人水上第2営農組合の代表理事を務めるなど、新たな分野で地域に根差した活動を展開しています。

個人的な側面としては、趣味は登山などが知られています。広島県府中市の助役および市長在任中は、家族を千葉に残して単身赴任しており、実に15年間にわたり千葉と府中市を往復する生活を送っていました。建設官僚から地方政治家、そして現在は農家として、伊藤吉和氏は多岐にわたる経験と活動を通じて、地域社会に関わり続けています。

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