伊藤昌弘 (政治家)

伊藤 昌弘

伊藤 昌弘（いとう まさひろ）は、昭和から平成にかけて活動した日本の政治家、薬剤師です。1927年（昭和2年）10月27日、現在の東京都墨田区にあたる東京市本所区に生を受けました。千葉医科大学附属薬学専門部で薬学を学び、1948年に卒業。薬剤師としての道を歩む一方、政治の世界にも深く関わることとなります。

経歴と地方政界での活動

地元である墨田区に戻った伊藤氏は、まず地方政治の舞台でキャリアをスタートさせました。1959年からは墨田区議会議員を2期務め、地域課題の解決に尽力。その後、さらに活動の場を広げ、1969年からは東京都議会議員を2期務めました。都議時代は自由民主党に所属しており、地方政界で着実に実績を積み重ねていきました。

国政への挑戦と衆議院議員時代

地方での経験を糧に、伊藤氏は国政への挑戦を開始しました。1976年の衆議院議員総選挙では東京6区から無所属で立候補しましたが、当選には至りませんでした。その後、民社党に入党し、1979年、1980年と続けて総選挙に挑みますが、これもまた議席には届きませんでした。しかし、度重なる落選にも諦めず活動を続けた結果、1983年の総選挙でついに初当選を果たし、念願の衆議院議員となりました。民社党の一員として国会での活動を開始しましたが、続く1986年の総選挙では落選し、議員生活は1期で幕を閉じました。その後も国政復帰を目指し、1990年、そして無所属として立候補した1993年の総選挙にも挑戦しましたが、再び当選することは叶いませんでした。

政治信条と特筆すべき質疑

衆議院議員として活動した時期、伊藤氏は野党である民社党に籍を置きましたが、その政治的な立ち位置は明確な保守派でした。特にソビエト連邦や共産主義に対する強い対抗意識を持ち、反ソ・反共の姿勢を鮮明に打ち出していました。

国会議員としての活動の中で、彼の政治信条が色濃く表れたのが、1985年3月6日の衆議院予算委員会での質疑です。伊藤氏は、前年の8月にNHKが放映した特集番組「核戦争後の地球」について、その内容を厳しく批判しました。番組が提示した「核の冬」などのシミュレーションは「非科学的」であると断じ、さらにその情報源がソビエト連邦側にあるとして「反米親ソの偏向放送」であると強く非難しました。そして、当時の社会で広がりを見せていた反核・反戦運動の潮流に触れ、「今流行の間違った反核、反戦運動の先頭に立つようなことをなさるのか」と、NHKの番組制作の意図や姿勢を問い詰めたのです。

これに対し、当時のNHK副会長であった田中武志氏は、当該番組がカナダ、フランス、スウェーデンなど複数の国営放送機関による国際共同制作であることを説明するとともに、核兵器使用による気象変化の影響（核の冬）については、アメリカ国防総省も関連報告書を議会に提出していることなどを挙げて、伊藤氏の批判に対する反論や説明を行いました。

国政失職後の活動と著書

国会を離れた後も、伊藤氏は政治への情熱を失わず活動を続けました。地元である墨田区の区長を目指し、1995年と1999年の選挙に立候補しましたが、残念ながら当選はなりませんでした。また、かつて自身が務めた東京都議会議員のポストにも再び挑戦すべく、2001年の都議選に立候補しましたが、これも議席獲得はならなかったのです。

伊藤氏は、その政治活動の傍ら、著書も発表しています。1985年には、森本真章氏との共著として『赤い電波 - モスクワ放送ゑんま帳』（山手書房）を刊行しました。この著書のタイトルからも、彼の強い反共産主義、特にソビエト連邦への警戒心がうかがえます。

晩年と死去

長年にわたり地方から国政まで様々な選挙に挑戦し、一貫して保守・反共の立場を貫いた政治家、伊藤昌弘は、晩年を故郷で過ごしました。そして、2011年6月5日、肺炎のため83歳でその生涯を閉じることとなりました。地方議員から衆議院議員、そして再び地方へと、波乱に富んだ政治家人生を送りました。

※本稿は公開されている情報に基づいて記述しています。

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