伊藤明子

伊藤明子（いとう あきこ）氏は、日本の建設・国土交通分野における技術系官僚として重要な役割を果たし、その後消費者行政のトップも務めた人物です。

1962年2月28日、島根県に生まれた伊藤氏は、和歌山県立桐蔭高等学校を卒業後、京都大学工学部建築学科で建築を学びました。大学卒業を控えた1984年、国家公務員採用上級甲種試験（建築）に合格し、建設省に入省します。建築技官としてキャリアをスタートさせた伊藤氏は、省庁内で様々な部署を経験するとともに、地方自治体である宝塚市への出向も経験し、まちづくりに関連する業務に携わりました。

建設省、その後の国土交通省では、住宅局を中心にキャリアを積み重ねました。住宅整備課、市街地建築課、建築指導課など、住宅政策や建築行政に関わる部署で多くの役職を歴任し、これらの分野における専門知識と経験を深めていきました。企画専門官や課長補佐、市街地住宅整備室長、そして住宅総合整備課長、住宅生産課長といった要職を経験し、住宅政策の中核を担う存在となります。

2014年には内閣官房に出向し、まち・ひと・しごと創生本部設立準備室や事務局で次長を務め、地方創生政策の立ち上げと推進にも深く関与しました。

国土交通省に戻った後、2017年7月には国土交通省住宅局長に就任しました。これは同省にとって初めての女性局長誕生であり、技術系官僚としてのキャリアにおける大きな節目となりました。住宅局長として、国の住宅政策を統括する重責を担いました。

住宅局長を退任後、再び内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局にて地方創生総括官補として勤務。そして2019年7月、消費者庁長官に就任しました。これは三代続けて女性が消費者庁のトップを務めることとなり、女性の社会における活躍という点でも注目を集めました。消費者庁長官として、消費者行政の推進、消費者被害の防止、消費者教育の普及などに尽力しました。

長官在任中の2020年5月には、同居する父親が新型コロナウイルスに感染したことを受け、2週間にわたり在宅勤務を実施しました。これは中央省庁のトップとしては初めてのケースであり、コロナ禍における新たな働き方や危機管理のあり方を示す事例としてメディアでも取り上げられました。

2022年7月に消費者庁長官を退任後、伊藤氏は官界から民間に活躍の場を移します。同年10月には公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターの顧問に就任し、専門知識を活かした助言活動を開始。2023年3月には、自ら「まち・ひと・しごと研究所」を設立し、代表取締役に就任しました。さらに、同年6月には伊藤忠商事の取締役、2024年3月にはキヤノンの取締役（同社初の女性取締役）、同年5月にはWECARSの取締役に就任するなど、複数の大手企業で社外取締役として経営に参画し、多角的な視点から貢献しています。

伊藤明子氏は、長年にわたり国の建設・国土交通分野で技術系官僚として専門性を磨き、主要な政策決定に関与しただけでなく、国土交通省初の女性局長、消費者庁長官といった要職を歴任しました。退官後も、公益性の高い団体や日本の主要企業において重要な役職を務め、その経験と知見を社会の様々な分野に還元しています。技官としての確かな基盤と、時代に応じた柔軟な対応力、そして女性としての道を切り開いてきたキャリアは、多くの人々に影響を与えています。

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