伊藤詔子

伊藤詔子：アメリカ文学と環境の交差点を探る第一人者

伊藤詔子氏は、日本のアメリカ文学研究において、その卓越した知見と多岐にわたる活動で高い評価を得ている学者です。専門はアメリカ文学、アメリカ文化、環境文学、そしてエコクリティシズムと幅広く、その研究は深い洞察と独自の視点で知られています。

広島大学名誉教授、元松山大学教授という経歴を持ち、現在は日本ポー学会会長（2021年～）を務めるなど、第一線で活躍を続けています。神戸市に生まれ、広島大学で学士、修士課程を修了後、博士課程後期単位を取得し博士号を取得。ノートルダム清心女子短期大学助教授などを経て、広島大学総合科学部、同文学研究科教授、そして松山大学言語文化研究科教授（特任）と、研究・教育の場において重要な役割を果たしてきました。

国際的な視野も持ち、ブラウン大学、ヴァージニア大学でフルブライト上級研究員として研究活動を行い、ASLE（米文学環境学会）Honorary Member（2007年～）、Poe Studies Association Honorary Member（2015年～）など、数々の名誉ある称号も受けています。また、日本アメリカ文学会副会長なども歴任し、日本ソロー学会顧問、エコクリティシズム研究学会名誉会長などの要職も務めています。2022年7月には、Thoreau Society The Walter Harding Distinguished Scholar Awardを受賞するなど、その功績は広く認められています。

さらに、筑波大学、関西大学、北九州市立大学、安田女子大学各大学院、岡山大学、信州大学、広島経済大学各学部などで非常勤講師として教鞭をとり、後進の育成にも尽力しています。

研究と執筆活動：多角的な視点からのアメリカ文学探求

伊藤氏の研究は、アメリカ文学の多様な側面を深く掘り下げています。特に、ヘンリー・デイヴィッド・ソローやエドガー・アラン・ポーといった古典作家への造詣は深く、数々の著作で彼らの作品世界を多角的に分析しています。環境問題への関心の高まりを反映して、環境文学やエコクリティシズムの観点からの研究にも積極的に取り組んでおり、アメリカ文学における自然描写や環境倫理の変遷を解き明かす重要な研究成果を挙げています。

単著として、『よみがえるソロ―ネイチャーライティングとアメリカ社会』（柏書房、1998）、『アルンハイムへの道―エドガーアラン・ポーの世界』（桐原書店、1996）、『はじめてのソロー――森に息づくメッセージ』（NHK出版、2016）、『ディズマル・スワンプのアメリカンルネサンス――ポーとダークキャノン』（音羽書房鶴見書店、2017）、『新編エドガー・アラン・ポー評論集　ゴッサムの街と人々他+コロナ時代にニューヨーク作家ポーを読む』（小鳥遊書房、2020）など、多くの著書を発表しています。これらは、単なる紹介にとどまらず、独自の解釈と深い考察に基づいた、高度な分析がなされている点が特徴です。

また、監修や共編著書も多く手がけており、『エコトピアと環境正義の文学――日米より展望する広島よりユッカマウンテンへ』（晃洋書房、2009）、『トランスパシフィック・エコクリティシズム――物語る海、響き合う言葉』（彩流社、2019）、『アメリカ研究の現在地－－危機と再生』（彩流社、2023）など、幅広いテーマを扱った書籍を世に送り出しています。さらに、ソローやポーに関する研究以外にも、アメリカ文学における様々なテーマを扱った共著にも多数参加し、日本のアメリカ文学研究に大きく貢献しています。

翻訳の分野でも活躍しており、『森を読む――種子の翼に乗って』（H・D・ソロー著、宝島社、1995）、『緑の文学批評――エコクリティシズム』（フロム、アレン、ビュエル他著、松柏社、1998）など、環境文学を含む重要な作品を日本語に紹介することで、日本の読者への理解を深めています。

学会活動と国際的な交流：研究ネットワークの構築

伊藤氏は、数々の学会活動を通じて、日本のアメリカ文学研究の進展に貢献しています。日本ポー学会会長の他、日本ソロー学会顧問、エコクリティシズム研究学会名誉会長などの要職を務め、国内外の研究者とのネットワーク構築にも力を注いでいます。国際会議への参加や講演、論文発表なども積極的に行い、日本の研究成果を世界に発信するとともに、国際的な知見を積極的に取り入れることで、日本のアメリカ文学研究のレベル向上に貢献しています。

数々の国際会議や学会シンポジウムでの発表、講演活動は、その研究の幅広さと国際的な評価の高さを示すものです。 2017年から2022年にかけて行われた講演やシンポジウムのテーマは、「原爆文学」、「エコクリティシズム」、「アメリカ文学における自然と環境」、「トランスアトランティックな視点からのアメリカ文学」など多岐にわたっており、伊藤氏の研究の深さと広さを物語っています。これらの活動を通して、伊藤氏は日本のアメリカ文学研究における中心的役割を果たすとともに、国際的な研究交流の促進にも大きく貢献しています。

伊藤詔子氏の研究は、アメリカ文学、環境文学、そしてエコクリティシズムという複数の領域を有機的に結びつけ、独自の視点を提示し続けています。その多大な貢献は、日本のアメリカ文学研究、ひいては環境問題への意識向上に多大なる影響を与え続けていると言えるでしょう。

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