伊賀氏広

伊賀氏広：日本の航空黎明期を支えた男爵

伊賀氏広（1886-1966）は、日本の航空機製作において重要な役割を果たした人物です。華族（男爵）であり、伊賀家の当主として、また、飛行機製作の先駆者として、多方面で活躍しました。

高知から東京へ、そして航空機の世界へ

現在の高知県高知市に生まれた氏広は、山内容堂の弟の子として生まれました。その後、宿毛（現・宿毛市）の旧領主だった伊賀家12代当主の養子となり、家督を相続します。幼少期から教育を受け、東京高等師範学校附属中学校を卒業。東京美術学校にも入学するも中退し、陸軍に入隊。軍隊生活の中で飛行機による偵察に興味を持ち、航空機への関心を深めていきます。

独学と情熱：国産飛行機への挑戦

1910年、日野熊蔵と徳川好敏による日本初の飛行機飛行が行われましたが、これは輸入機でした。氏広は、自らの手で国産飛行機を製作しようと決意します。伊賀家の屋敷にこもり、洋書を読み漁り研究を重ね、「伊賀式双葉空中飛行機」を製作、ゴム動力による飛行に成功させます。この功績は新聞で大きく取り上げられ、多くの航空機研究者と交流を持つことになります。

資金は主に伊賀家の私財から捻出され、田中舘愛橘ら著名な研究者からの協力を得ながら、国産飛行機の開発を進めます。1911年には竹製の翼を持つ「伊賀式滑空機」を完成させますが、試験飛行は失敗に終わります。しかし、氏広はすぐに動力飛行機の製作に着手。雑誌『科学世界』からの資金援助を受け、大阪の島津楢蔵が製作した日本初の航空機用エンジンを搭載した「伊賀式舞鶴号」を完成させます。

1912年12月24日、代々木練兵場で「伊賀式舞鶴号」の飛行試験が行われます。しかし、エンジンの不調により飛行はできず、滑走のみで終わってしまいます。「伊賀式舞鶴号」は日野熊蔵に引き取られ、改良が続けられましたが、飛行に成功することはありませんでした。莫大な費用と親族の反対により、氏広は飛行機研究を断念せざるを得なくなります。

航空界への貢献と晩年

飛行機研究を断念した後、氏広は故郷の宿毛に戻り、消防団の近代化に尽力します。その後、再び東京に戻り、民生産業（日本ヂイゼル株式会社）の設立に参加、営業部長を務めます。終戦後は仏像研究に没頭し、1966年に79歳で亡くなりました。

氏広は、日本飛行機協会（後の日本航空協会）の設立にも携わっています。航空機への関心を高めるため、協会設立に尽力し、会長には大隈重信、副会長には阪谷芳郎といった著名人が就任するなど、協会の成長に貢献しました。

伊賀氏広は、独学で飛行機製作に取り組み、国産飛行機開発の黎明期において重要な役割を果たした人物です。彼の情熱と努力は、日本の航空技術の発展に大きく寄与しました。彼の功績は、日本の航空史に燦然と輝くものと言えるでしょう。また、晩年の仏像研究からも、多様な分野への関心の深さを窺い知ることができます。

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