伏見康治

伏見 康治（ふしみ こうじ）の生涯と業績

伏見康治は、1909年6月29日に愛知県名古屋市で誕生し、その後東京で成長しました。彼は東京高等学校を経て東京帝国大学理学部物理学科に進学し、1933年に卒業後、同大学で寺澤寛一教授の助手として物理学の道を歩み始めました。翌年には大阪帝国大学（現在の大阪大学）に移り、友近晋教授の下で研究を進めましたが、友近教授の留学に伴い、菊池正士教授に誘われて原子核実験に参加。

1940年には教授に昇進し、量子統計力学における密度行列に関する研究を行い、理学博士の学位を取得しました。この時代、彼は物理学の楽しさを広めるため多くの啓蒙活動も展開し、1942年には一般向けの書籍『驢馬電子』を出版しました。また、1943年には著名な科学書『不思議の国のトムキンス』を翻訳し、多くの若者を物理学へと導きました。

戦後、彼は日本独自の原子力研究の重要性を認識し、原子力の平和利用において「自主、民主、公開」の三原則を提唱。これが「茅・伏見の原子力三原則」として知られるようになりました。彼はまた、京都大学原子炉実験所の設立にも関わり、地元住民を説得して施設の実現に貢献しました。これらの活動を通じて、黄田教授の下で多数の優れた原子力研究者を育ったことも特筆されます。

1950年代半ばには、核融合研究の重要性が高まる中で、湯川秀樹や嵯峨根遼吉と共に研究体制の整備について議論を重ねていきました。1961年には名古屋大学にプラズマ研究所が設置され、彼は初代所長として研究所の発展に尽力しました。1973年に名古屋大学を定年退官した後も、日本学術会議において教員として活躍し、1977年から1982年までの会長在任中には研究環境の整理と国際交流の推進に寄与しました。

さらに、1983年には公明党から参議院議員に当選し、1989年までの1期を務めました。彼は冷戦時代には日ソの学術交流にも尽力し、1991年にはソ連崩壊後の科学者への救済活動を行いました。また、1982年からは世界平和アピール七人委員会に参加し、社会的責任を果たすための行動を続けました。

物理学への深い愛情を以て、伏見は対称性の美に関する探求にも取り組み、著書『美の幾何学』や『折り紙の幾何学』が広く知られています。それに加えて、彼は妻と共著で折り紙に関する研究も行い、数学的な観点からその魅力を探求しました。

彼の多岐にわたる著作には、物理学の専門書、一般向けの啓蒙書、翻訳書が含まれ、数々の賞も受賞。名誉教授としての地位を持ちながら、多くの学生や研究者に影響を与え続けました。

伏見康治は2008年に98歳で亡くなるまで、理論物理学の分野において数多くの足跡を残し、科学の発展だけでなく社会への責任を重んじる姿勢を示した偉大な学者の一人でありました。彼の人生は学術の発展と社会貢献が交ざり合った豊かな歴史の証です。

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