伝承 (日系アメリカ人)

伝承：日系アメリカ人強制収容の歴史を未来へつなぐ

1996年、ワシントン州シアトルに設立された非営利団体「伝承(Densho)」は、第二次世界大戦中にアメリカ合衆国で日系人が経験した強制収容の歴史を記録、保存、共有することを使命としています。単なる歴史の保存にとどまらず、現代社会における公平と正義の促進を目指し、多様な活動を通じてその目標達成に貢献しています。

多角的な活動：オンライン資源と教育プログラム

「伝承」の活動は、主にオンラインとオフラインの2つの柱で構成されています。オンラインでは、英語と日本語の両方で、日系アメリカ人の歴史に関する膨大な情報を提供しています。電子図書館には、2,000時間にも及ぶインタビュー動画、8万点以上の写真や手紙といった貴重な一次資料が収蔵されており、誰でも自由に閲覧・ダウンロードが可能です。さらに、日系アメリカ人の歴史に関する専門事典も運営し、詳細な情報へのアクセスを容易にしています。これらの資源は、ワシントン州の学習指導要領にも準拠した教育教材としても活用されており、学校教育現場での利用も促進されています。

一方、オフラインでは、作家による講演会などの公教育プログラムを提供する他、ベインブリッジ島の日系人コミュニティや全米日系人博物館といった関連団体とも連携し、オーラル・ヒストリーの収集・保存にも取り組んでいます。さらに、ウィング・ルーク博物館、シアトル歴史産業博物館といった、地域社会の重要な機関とも協力関係を築き、日系人の歴史を、より広範な文脈で理解するための活動を展開しています。

教育プログラム：批判的思考と市民的自由への意識向上

「伝承」の教育プログラムは、学生たちに市民的自由の問題を深く考えさせることを目的としています。例えば、「紛争の原因」という授業では、移民問題を労働需要や社会変化といった側面から分析させ、多様な視点からの考察を促します。「問題の探究」では、第二次世界大戦中のメディア報道や抑留政策を分析することで、情報収集の重要性や民主主義社会における責任ある市民参加について考えさせます。また、「憲法上の問題：市民的自由、個人、そして公益」では、個人の権利と公共の利益のバランスについて探求する機会を提供しています。これらのプログラムを通して、「伝承」は学生たちの批判的思考能力を養い、全ての人の市民的自由を尊重する意識を高めることに貢献しています。

財政基盤と組織運営

「伝承」は当初、シアトル日本商工会の外郭団体として設立されましたが、2002年には独立した非営利団体となりました。運営は、トム・イケダ代表理事を中心とした理事会と職員、そして多くのボランティアや大学院生インターンによって支えられています。財政面では、基金や政府助成金に加え、「DENSHO DINNER」と呼ばれる資金調達イベントや、公式サイトからの個人寄付によって運営されています。

未来への継承：歴史から学ぶ、未来を築く

「伝承」は、単に過去の歴史を記録・保存するだけでなく、その経験から未来への教訓を引き出し、現代社会の課題解決に貢献することを目指しています。日系人強制収容という歴史的事実を後世に語り継ぎ、同様の悲劇が繰り返されないよう、教育や啓発活動を通じて社会に貢献し続けています。その活動は、アメリカ社会における多様性と包摂性の促進、そして人権尊重の意識を高める上で重要な役割を果たしています。 日系アメリカ人の経験を通して、人種差別や偏見といった普遍的な問題への理解を深め、より公正で平和な社会の構築に貢献しようという「伝承」の取り組みは、今後も継続していくことでしょう。

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