伝説 (フローラン・シュミット)

伝説 作品66

フローラン・シュミットによって1918年に作曲された『伝説』（仏: Légende）作品66は、アルトサクソフォーンと管弦楽のために書かれた単一楽章の作品です。この楽曲は、アメリカの熱心なサクソフォーン愛好家であり演奏家でもあったエリーズ・ホールからの依頼を受けて生まれました。ホールは、当時まだレパートリーが少なかったクラシック・サクソフォーンのために、多くの作曲家に新たな作品を委嘱した人物として知られており、シュミットの『伝説』もそうした活動の重要な成果の一つと言えます。このオリジナル版に加え、ヴァイオリン独奏と管弦楽、あるいはヴィオラ独奏と管弦楽のための版も作成されており、より広い楽器の奏者にも演奏されています。

クラシックサクソフォーンの分野において、『伝説』は黎明期の重要なオリジナル作品として位置づけられています。その音楽的な魅力と技術的な要求から、今日でも多くのサクソフォーン奏者にとって欠かせないレパートリーの一つとなっています。

作品の音楽性に関して、作曲者シュミットは「伝説」というタイトルが示唆するように、東洋的な色彩や神秘的な雰囲気を楽曲に織り交ぜることを意図しました。特に、独特の響きを持つサクソフォーンの音色と、管弦楽の織りなす豊かなハーモニーを融合させることで、幻想的で奥行きのある音響空間を創出しています。独奏アルトサクソフォーンのパートは、非常に表情豊かで、時には叙情的に、時には技巧的に書かれています。特に、4分の4拍子の中で8分音符を基調としたリズミカルで活発なパッセージが多く用いられており、奏者には高度な技巧と音楽性が求められます。全体として、独奏楽器とオーケストラが密接に絡み合いながら、一つの物語を紡ぎ出すかのような構成となっています。

この作品の初演は、まずピアノ伴奏版によって行われました。1919年2月に、モーリス・ヴューのアルトサクソフォーンとルイ・オベールのピアノにより初めて聴衆の前で演奏されました。その後、管弦楽伴奏による本格的な初演は、同年5月25日にコンセール・パドルーによって実現しました。以来、多くのサクソフォーン奏者によって演奏され続けており、特に高名なマルセル・ミュールも1933年にはこの作品を取り上げています。ミュールのような巨匠がレパートリーに加えたことは、『伝説』の地位確立に大きく貢献しました。

演奏時間は約13分で、比較的一つのまとまりを持った中規模の作品と言えます。サクソフォーンの可能性を広げた初期の重要なレパートリーとして、『伝説』は今なお多くの奏者、聴衆に愛され続けています。

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