伝説なき地

伝説なき地

『伝説なき地』は、著者・船戸与一によって1988年に発表された小説で、講談社のレーベル「推理特別書下ろし」として上下2巻にまとめられています。作品は、南米を舞台にした緊迫した物語を描いており、特にベネズエラのマラカイボ湖周辺の地域を主題としています。この作品は、南米に関連した三部作の一部として位置づけられていますが、登場人物や舞台はそれぞれ独立しているため、各作品を単独で楽しむことが可能です。

あらすじ

物語は、かつて石油で栄華を誇ったベネズエラのマラカイボ湖周辺が舞台です。しかし、石油資源の枯渇により、この地域は衰退の一途をたどっていました。名門エリゾンド家もその例外ではなく、所有する油田もまた苦境に立たされています。しかし、事態は一変します。エリゾンド家の油田が希土類（レアアース）の埋蔵地であることが発覚したのです。

物語は、コロンビアからの不法移民である女・ベロニカを中心に展開します。彼女を巡る争いで、エリゾンド家の次男、アルフレードが実権を握り、ベロニカとの運命が交錯していきます。エリゾンド家の油田には、コロンビアからの難民たちが住み着いており、その中には「マグダラのマリア」と呼ばれる若い女性が宗教的共同体の中心として存在しています。

一方で、鍛冶志朗は脱獄した丹波春明と合流し、過去に彼が隠した2000万ドルを取り戻すためにコロンビアからベネズエラに渡ります。隠し場所がエリゾンド家の油田であるため、二人は難民たちから思わぬ歓迎を受けることになります。しかし、エリゾンド家の私兵が彼らを立ち退かせようとする中、難民たちは抵抗を続けます。

物語は、欲望と憎悪が渦巻く「伝説なき地」での混乱した状況を描写しながら進行します。丹波を中心に、難民たちが武器を調達し防御線を築く様子が描かれ、殺戮劇が幕を開けるのです。壮絶な流血劇は、大自然の冷酷さを背景に繰り広げられ、やがて突如として幕が下ろさかれることになります。

主な登場人物

• - 鍛冶志朗: チリの左翼革命運動活動家。
• - 丹波春明: コロンビアのサンタマルタ刑務所の囚人。
• - カルロ・マルチネス: コロンビア民族解放軍の行動隊長。
• - マグダラのマリア: 難民共同体の中心となる女性。
• - ペドロ・イダルゴ: 難民共同体の事務的代表。
• - ベルトロメオ・エリゾンド・ザボラ: エリゾンド家の当主。
• - アルフレード・エリゾンド・シギリウス: エリゾンド家の次男。
• - ベロニカ・オルチス: メリナの看護人。

この作品は、「このミステリーがすごい!」で1988年度国内部門第1位を受賞するなど、多くの評価を受けました。ぜひ、多くの読者に楽しんでもらいたい一冊です。

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