佃正樹

佃正樹：甲子園を沸かせた不世出の左腕

佃正樹（つくだ まさき）は、1955年4月26日に広島県で生まれ、2007年8月13日に52歳でこの世を去った元プロ野球選手です。左投げ右打ちという珍しいスタイルで、特に高校時代には圧倒的な制球力と落差の大きいカーブを武器に、広島県立広島商業高等学校のエースとして甲子園で数々の伝説を作りました。

甲子園での輝かしい活躍

1973年、佃は迫田穆成監督率いる広島商業のエースとして、春の選抜高校野球大会に出場。達川光男、金光興二、楠原基らと共にチームを牽引しました。特に準々決勝までの3試合を完封するという圧巻の投球を披露。準決勝では、当時「怪物」と恐れられた作新学院高校の江川卓と対戦しました。この試合で、佃は江川の連続無失点記録を止めるポテンヒットを放ち、さらにチームを勝利に導く決勝点をもぎ取る活躍を見せました。この試合での広島商業のヒットはわずか2本、そのうちの1本が佃の放ったものでした。チームメイトが勝利に沸く中、佃は「名門・広島商業の背番号1として勝って当然」と冷静だったというエピソードも残っています。しかし、決勝では横浜高校に敗れ、準優勝に終わりました。

同年夏の甲子園では、佃自身の調子は今一つだったものの、粘り強いピッチングでチームを5度目の全国制覇に導きました。特に決勝戦の静岡高校との試合は、九回裏一死満塁からサヨナラスリーバントスクイズという劇的な幕切れで、名勝負として語り継がれています。また、細身で美少年だった佃は、多くの女性ファンを魅了し、宿舎にファンが殺到するほどの人気ぶりでした。

大学、社会人野球での苦悩

1974年、佃は法政大学に進学。同期には江川、金光、楠原らがおり、「花の49年組」と呼ばれました。1年生の春季リーグ戦では江川よりも先にベンチ入りを果たすものの、その後は右膝痛が悪化し、思うような活躍はできませんでした。大学卒業後は、社会人野球の三菱重工広島に入団しましたが、ここでも目立った活躍はできず、チームが都市対抗野球で優勝した際にも登板機会はありませんでした。

引退後の人生と晩年

野球部引退後、佃は三菱重工橋梁エンジニアリングに勤務し、営業部門の部長として長年活躍しました。私生活では1979年に結婚し、3人の娘をもうけ、少年野球の指導にも尽力しました。しかし、2006年4月に食道癌が発覚。翌2007年8月13日に、52歳という若さでこの世を去りました。

選手としての特徴とエピソード

佃は珍しい左投右打の選手でした。もともとは左打ちでしたが、遊びで右で打った際に巧みな流し打ちを見せたことで、監督の指示で右打ちに転向しました。また、左投手が右打席に立つことは、投げる腕に死球の危険が増すため、通常はやらせないことでしたが、佃はそれを見事に克服し、貴重な一打を生み出しました。

漫画に、佃が左打席で江川からヒットを打つシーンが描かれた際、江川は「僕のボールが引っ張れるわけがない」と怒ったという逸話も残っています。

達川光男とは、1998年の明石海峡大橋の開通式で再会。佃が開通に尽力した橋を、達川に「俺が造った橋を見て欲しい」とテープカットに招待しました。この時の感動は、野球での優勝を凌ぐものだったと語っています。また、2022年には達川が、テレビ番組で佃を弔う旅として明石海峡大橋を訪れた様子が放送されました。

甲子園での成績

第45回選抜高等学校野球大会 (1973年)

○3-0 静岡商業
○1-0 松江商業
○1-0 日大一高（3試合連続完封）
準決勝 ○2-1 作新学院
決勝 ●1-3 横浜高校

第55回全国高等学校野球選手権大会 (1973年)

○12-0 双葉
○3-0 鳴門工業
○3-2 日田林工
準々決勝 ○7-2 高知商業
準決勝 ○7-0 川越工業
決勝 ○3-2 静岡高校

通算10勝1敗

脚注

Sports Graphic Number 1986年8月20日号 59頁
讀賣新聞 2007年10月18日 29面(追悼抄)

外部リンク

時事ドットコム：1970年代 「夏の球児」 写真特集 広島商（広島） 佃正樹投手

佃正樹は、その短い生涯の中で、甲子園という舞台で輝きを放ち、多くの人々の記憶に深く刻まれました。彼の不屈の精神と才能は、これからも語り継がれていくことでしょう。

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