但東町

旧但東町：山里の暮らしと織物の歴史

兵庫県北部、京都府との県境に位置していた旧但東町は、豊かな自然と歴史、そして独自の文化を育んできた町でした。2005年（平成17年）の豊岡市への合併によってその歴史に幕を閉じましたが、その魅力は今も人々の記憶に残っています。

自然と地理

但東町は、円山川の支流である太田川と出石川が流れ、東西に細長く伸びる山間地域でした。周囲を山々に囲まれた地形は、町の中心部を流れる川沿いに点在する42の集落を生み出しました。山林と原野が町の面積の87.6％を占め、耕地はわずか4.7％。農林水産省の定義による典型的な山間農業地域でした。東西方向には円山川支流の太田川、南西には同じく支流の出石川が流れ、これらの河川沿いに集落が形成されていました。周囲を山々に囲まれた地形から、京都府との交通は峠越えが必要な道路が多く、丹波地域や丹後地域との経済的、文化的交流は容易ではありませんでした。標高の高い山々や複雑な地形は、町の発展に影響を与えた重要な要素と言えるでしょう。代表的な山としては高竜寺ヶ岳が挙げられます。

歴史と変遷

1956年（昭和31年）、出石郡の合橋村、資母村、高橋村が合併して但東町が誕生しました。その後、近隣の自治体との合併問題が検討され、2005年（平成17年）4月1日、豊岡市、出石町、城崎郡の城崎[[町]]、竹野町、日高町との合併により、豊岡市の一部となりました。但東町の行政は、合併まで独自の組織によって運営され、1976年（昭和51年）には町の花に「みつばつつじ」、町の木に「欅」が制定されました。また、モンゴルとの国際交流も盛んに行われていました。

経済と産業

但東町の経済は、古くから農業が中心でした。しかし、地形的制約から農業だけでは生活を支えることが困難であったため、戦前より養蚕、畜産業、製炭業が盛んに行われていました。戦後には、ピーマンやキュウリの野菜栽培、チューリップ球根の生産、ブロイラー飼育などへと産業構造が変化していきました。

特に注目すべきは、丹後ちりめんの生産です。1960年代のエネルギー革命による製炭業などの衰退に対し、ちりめん機業は好況を迎えました。多くの農家が機業へ転業し、一時的に若年層のUターン現象も見られました。しかし、1970年代をピークに機業も衰退し、織機台数は大幅に減少しました。このような地理的・経済的困難を克服するため、但東町は農業を活かした都市との交流事業による活性化を目指し、「但東シルクロード計画」（1983年）や「但東シルクピア計画」（1989年）などを策定しました。これらの計画は、町独自の資源を生かした地域振興の試みとして注目に値します。

生活と文化

但東町には、但東町立合橋小学校、但東町立資母小学校、但東町立高橋小学校、そして但東町立但東中学校がありました。交通手段は、JR山陰本線江原駅が最寄りの鉄道駅で、町内にはバス路線（全但バス、豊岡市営バス）が運行されていました。国道426号、国道482号、そして複数の県道が町内を通っており、周辺地域との交通の便を支えていました。

町内には、臨済宗大徳寺派の安国寺、日本・モンゴル民族博物館、そして「シルク温泉」などの観光スポットがありました。特にシルク温泉は、但馬地方有数の「ぬるぬる」温泉として知られ、週末には多くの観光客が訪れていました。「たんとうチューリップまつり」などの祭事・催事も、町の活気と魅力を高める役割を果たしていました。

まとめ

旧但東町は、自然の恵みと人々の努力によって、独自の文化と歴史を築き上げてきました。厳しい自然条件の中で培われた産業や、地域活性化への取り組みは、現代社会においても学ぶべき点が多いと言えるでしょう。合併によって町としての存在はなくなりましたが、その歴史と文化は、豊岡市の歴史の一部として、そして人々の記憶の中に生き続けています。

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