佐々木潤之介

佐々木潤之介：民衆史研究の先駆者

佐々木潤之介（1929年7月16日 - 2004年1月23日）は、20世紀後半の日本近世史研究において、民衆史という新たな視点を導入し、その発展に大きく貢献した歴史学者です。特に、「世直し状況」論や「幕藩制国家」論といった独自の理論を展開し、近世社会における民衆の役割や社会構造の解明に重要な足跡を残しました。

生涯

佐々木は、現在の秋田県大館市に生まれ、秋田県立大館中学校、東京高等学校を経て、1953年に東京大学文学部国史学科を卒業しました。その後、1960年に東京大学大学院人文科学研究科博士課程を修了し、文学博士の学位を取得しました。大学卒業後は、法政大学第二高等学校教諭を経て、1961年に一橋大学社会学部の講師となり、助教授、教授と昇進しました。1975年には一橋大学社会学部長を務め、1993年に定年退官するまで、長年にわたり後進の育成に尽力しました。退官後は、神奈川大学教授、早稲田大学教育学部教授を歴任し、2004年1月23日、脳梗塞のため東京都青梅市で生涯を閉じました。

研究内容

佐々木の研究は、従来の支配者層中心の歴史観とは異なり、抑圧される民衆の視点から近世社会を捉えようとした点に大きな特徴があります。彼は、農民層の分解に着目し、「豪農ー半プロ」という概念を提唱し、農民が単なる支配される存在ではなく、社会変動の主体となる可能性を示唆しました。

「世直し状況」論は、近世社会における民衆の不満や抵抗運動が、社会変革の潜在的な力となりうることを指摘したものです。また、「幕藩制国家」論は、従来の幕藩体制論が幕府と藩の関係性を中心に論じてきたのに対し、幕府と藩を一体的な国家として捉え、人民との関係性に着目した画期的な理論でした。これらの理論は、近世社会の構造や変動をより深く理解するための新たな枠組みを提供しました。

佐々木は、これらの理論を著書『幕末社会論』や『幕藩制国家論』などで展開し、学会内外に大きな影響を与えました。また、多くの研究者を育成し、田崎宣義、米倉誠一郎、酒寄雅志、稲田雅洋など、その指導を受けた人々は、各分野で活躍しています。韓国の経済史学者李栄薫も、佐々木の論文に感銘を受け、自身の研究の方向性を決定づけたと語っています。

主な著作

『幕藩権力の基礎構造 「小農」自立と軍役』(1964年)
『日本の歴史 12 大名と百姓』(1966年)
『幕末社会論 「世直し状況」研究序論』(1969年)
『世直し』(1979年)
『近世民衆史の再構成』(1984年)
『幕藩制国家論』(1984年)
『幕末社会の展開』(1993年)
『地域史を学ぶということ』(1996年)
『江戸時代論』(2005年)
『民衆史を学ぶということ』(2006年)

佐々木潤之介は、その生涯を通じて、民衆の視点から歴史を捉え直し、近世社会の新たな解釈を提示し続けました。彼の業績は、今日の歴史学研究においても重要な意義を持ち続けています。

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