佐々木道雄 (食文化研究家)

佐々木道雄（ささき みちお）

佐々木道雄は、1947年に岩手県盛岡市で生まれた日本の食文化研究家です。長年にわたり、日本と朝鮮半島の間に存在する食を巡る歴史や文化的な交流について探求を深めてきました。特に、現代日本で広く親しまれている焼肉やキムチといった料理の起源や伝播、そして両地域での受容と変容の過程に関する研究で知られています。

来歴

佐々木氏は1970年に山形大学文理学部を卒業しました。卒業後は会社に勤務していましたが、その傍ら、1976年からは個人的に朝鮮半島の歴史と文化について学ぶことを始めました。会社員としてのキャリアを続けながらも、朝鮮半島への関心を深め、独学で研究を進めていたようです。そして、2000年を迎える頃からは、それまで培ってきた知識と情熱を傾け、日本と朝鮮半島の文化交流史、中でも食文化に特化した研究活動に本格的に専念するようになりました。この経歴は、専門の研究機関に所属することなく、独自の道を切り拓いた研究者としての側面を示しています。

研究活動と主な業績

佐々木氏の研究は、単に料理のレシピや食材の歴史を追うにとどまらず、食という切り口から日本と朝鮮半島の社会、文化、そして人々の生活の変遷を読み解こうとするものです。両地域が歴史的にどのように結びつき、互いの食習慣に影響を与え合ってきたのかを、文献調査やフィールドワークなどを通じて丹念に明らかにしようとしています。

特に、その研究成果は焼肉とキムチに関する一連の著作に結実しています。

『朝鮮の食と文化 日本・中国との比較から見えてくるもの』（むくげの会、1996年）：初期の著作であり、日本や中国との比較を通じて朝鮮半島の食文化の独自性や普遍性を考察しています。
『韓国の食文化 朝鮮半島と日本・中国の食と交流』（明石書店、2002年）：前著の内容をさらに深め、朝鮮半島と日本・中国との間の食を通じた歴史的な交流により焦点を当てた著作です。
『焼肉の文化史』（明石書店、2004年）および 『焼肉の文化史 焼肉・ホルモン・内臓食の俗説と真実』（明石書店、2012年）：現代日本における焼肉文化の形成過程を歴史的にたどり、その中で生まれた様々な言説や、ホルモン、内臓といった部位を食する文化がどのように受容され広まったのかを検証しています。通説とされる事柄についても、史料に基づきその真偽を確かめようとする姿勢が見られます。
『キムチの文化史 朝鮮半島のキムチ・日本のキムチ』（福村出版、2009年）：朝鮮半島を代表する発酵食品であり、保存食であるキムチの長い歴史を紐解き、それが日本に伝来した後、どのように独自の発展を遂げ、日本の食卓に定着していったのかを詳細に考察しています。
* 『焼肉の誕生』（雄山閣、2011年）：焼肉という食スタイルがいつ頃、どのような経緯で日本に登場し、現在の形へと至ったのか、その「誕生」の瞬間とその後の歩みに迫る一冊です。

これらの著作を通じて、佐々木氏は単なる料理の紹介ではなく、それぞれの食が持つ歴史的背景、社会的な意味合い、そして文化交流の中で果たした役割を明らかにしました。焼肉やキムチといった、日本でもお馴染みの食が持つ意外な歴史や、両地域の文化的な繋がりに対する理解を深める上で、これらの著作は貴重な貢献をしています。

また、佐々木氏は韓国の研究者である尹瑞石の著書 『韓国食生活文化の歴史』（明石書店、2005年）の翻訳も手がけています。これにより、韓国側からの視点を取り入れるとともに、日本の読者が韓国の食文化史に関する学術的な知見に触れる機会を提供しました。

佐々木道雄氏の研究は、食文化史という分野において、日本と朝鮮半島の関係性を歴史的に深く掘り下げた重要な業績として位置づけられます。食を通じて文化交流の軌跡をたどるその探求は、両地域の相互理解にも寄与するものと言えるでしょう。

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