佐伯千仭

佐伯千仭（さえき ちひろ）について

佐伯千仭は1907年12月11日に熊本県で生まれ、2006年に98歳で逝去した日本の法律学者です。その主な専門は刑法であり、長い間弁護士としても活躍しました。彼の学問的背景や業績について詳しく見ていきましょう。

学歴と経歴

佐伯は熊本県上益城郡木山町で生まれ、旧制熊本県立中学済々黌を経て、1927年に旧制第五高等学校を卒業しました。1930年には京都帝国大学法学部を卒業し、同大学では助手、助教授、教授と昇進しました。特に1933年に発生した滝川事件では、政府による教育の自由に対する直接的な介入に抵抗し、立命館大学への転任を余儀なくされましたが、翌年には再び京都大学に返り咲きました。1941年には教授に就任しました。

戦後は、自身が執筆した『刑法総論』の国家主義的な観点から、教職不適格の指定を受け、その結果京都大学を追放されました。1947年には弁護士として活動を開始し、その後も著書を通じて日本の法律制度に多大な影響を与え続けました。1951年には法学博士の学位を取得し、1954年には再び立命館大学の教授に就任、1973年に定年退職し名誉教授となりました。

教育者としての姿勢

佐伯は、近代派の宮本英脩に師事しましたが、彼は古典派の前期旧派に属し、その立場から学問を進めました。特に陪審制度の研究や、死刑廃止論に強い関心を持ちました。また、彼は滝川事件に関連する教授陣の一人として知られており、復帰組としての役割から多くの歴史的事件に関与しました。極東国際軍事裁判や松川事件など、戦後の重要な事件に彼の名は刻まれています。

学説の発展

佐伯は師の宮本の研究を基に、被害が軽微な場合における可罰性に関する考察を発展させ、可罰的違法性論を提唱しました。これにより、従来の刑法の枠組みを超えた新たな視点を提供しました。また、共犯論についてもその見解を発展させ、様々な立場から考察を行いました。彼の影響を受けた門下生には中川祐夫や中山研一がいます。

立場と活動

佐伯は、日本学術会議のメンバーや法制審議会委員としても活動し、法律と社会との関わりを深く理解する努力を惜しみませんでした。彼はまた、「理論の世界には疑うことの許されない権威はない」という言葉を残し、常に学問の自由と独立性を重視していました。

滝川事件との関わり

滝川事件の際、佐伯は抗議の意を表し、立命館大学に転任しましたが、その後旧友たちの説得を受けて京都大学に復帰しました。この体験は彼にとって重要なものであり、後に彼は復帰組教官として大学改革に尽力しましたが、最終的には国家主義的な内容を理由に教職不適格として排除され、このことが彼の法学者としての活動に大きな影響を与えました。

主な著作

佐伯千仭は数多くの著作を残しており、代表的なものとして以下があります：

• - 『ドイツにおける刑法改正論』
• - 『刑法講義総論』
• - 『死刑廃止を求める法セミセレクション』
• - 『犯罪と刑罰　佐伯千仭博士還暦祝賀』

彼の著作は現代の法律実務にも影響を及ぼし、次世代の法学者たちにとって貴重な資料となっています。

まとめ

佐伯千仭は、日本の法学の発展に多大な貢献をした人物であり、特に刑法の領域において、理論と実務の両面で重要な役割を果たしました。死刑廃止論者としての立場を貫きつつ、法律制度改革に尽力した彼の業績は、今なお多くの人々に影響を与え続けています。

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