佐瀬稔

佐瀬 稔（させ みのる）は、1932年（昭和7年）6月21日に生まれ、1998年（平成10年）5月23日に66歳で逝去した、日本の著名な評論家およびノンフィクション作家です。

神奈川県横浜市に生を受けた佐瀬稔氏は、東京外国語大学英米語学科を中途退学した後、報知新聞社に入社しました。ここでは運動部長や文化部長といった要職を歴任し、ジャーナリストとしての基礎を築きました。

1973年に独立して以降は、フリーランスのノンフィクション作家として精力的な活動を展開しました。彼の筆は多岐にわたり、特にスポーツ界の光と影、現代社会が抱える深刻ないじめ問題、そして極限に挑む登山家たちの人間ドラマといったテーマに深く切り込んでいきました。

その優れた筆致と丹念な取材に基づく作品は、高い評価を得ています。社会派ノンフィクションの代表作として知られる『金属バット殺人事件』は、1985年に第38回日本推理作家協会賞（評論その他の部門）を受賞し、大きな注目を集めました。また、スポーツ分野における造詣の深さを示すものとして、登山家・山田昇の生涯を描いた『ヒマラヤを駆け抜けた男―山田昇の青春譜』は、1990年に創設された第1回ミズノスポーツライター賞に輝いています。

佐瀬氏はスポーツライターとしても名を馳せ、『ワールド・ボクシング』誌では「感情的ボクシング論」と題した連載を持ち、ボクシングという競技を通して人間の内面に迫る論を展開しました。

彼の著書リストを見れば、その関心の広さが一目瞭然です。登山に関する作品には、『狼は帰らず アルピニスト・森田勝の生と死』、『喪われた岩壁 第2次RCCの青春群像』、『長谷川恒男 虚空の登攀者』などがあり、高みをめざす人々の生き様と死を克明に描きました。社会問題に目を向けた作品としては、受賞作『金属バット殺人事件』に加え、『うちの子が、なぜ! 女子高生コンクリート詰め殺人事件』、『いじめられて、さようなら』、『給食が危ない! O-157の恐怖』などがあり、当時の社会が抱える闇や事件の背景を深く掘り下げています。スポーツ関連では、『炎の男輪島功一』といったボクサーの評伝から、「感情的ボクシング論」をまとめた『リングサイドでうたを聞いた』、『彼らの誇りと勇気について』、『敗れてもなお』といった論考、さらには『オリンピック ヒーローたちの眠れない夜』まで、多角的にスポーツを論じています。

他にも、『ニッポン公務員事情』や『七万人のマネー・ウォーズ 日本生命の秘密』といった組織や経済を扱ったもの、『北海道の11日戦争』や『自衛隊の三十年戦争』、『官僚たちの八月十五日』など歴史や自衛隊に焦点を当てたもの、そして『天皇と背番号3 長島が神話になった日』といった野球界の伝説に触れた作品など、その著作は非常に多岐にわたります。翻訳も手がけており、体操選手のナディア・コマネチの自伝や、検死官トーマス野口に関する著作を日本に紹介しています。

硬派な社会問題から、スポーツ選手の情熱、登山家の孤独な挑戦まで、幅広いテーマにおいて人間の真実に迫ろうとした佐瀬稔氏の作品群は、ノンフィクション文学において確かな足跡を残しています。1998年、66歳でその生涯を終えましたが、彼が遺した数々の著作は、今なお多くの読者に読み継がれています。

もう一度検索