何処へ (曲)

「何処へ」（いずこへ）

「何処へ」は、日本のグループ・サウンズ（GS）を代表するバンド、ジャッキー吉川とブルー・コメッツが1966年12月5日に世に送り出したシングル楽曲である。彼らの歌唱をフィーチャーしたシングルとしては、3枚目にあたる作品として知られている。

楽曲と制作背景

この楽曲の作詞・作曲は、万里村ゆき子が手がけた。叙情的なメロディーラインと、ストリングスなどを効果的に取り入れた当時の先端的なアレンジが特徴として挙げられる。楽曲の大きな魅力の一つは、メンバーである井上忠夫（後の井上大輔）と三原綱木のそれぞれの個性が光るソロパートが楽曲の中に織り込まれている点だ。これにより、単なるバンドサウンドに留まらない、声の表情豊かな仕上がりとなっている。

技術的な面では、「何処へ」はブルー・コメッツの歌入りシングルとして、初めてステレオ方式で収録された記念碑的な作品である。当時の日本のポピュラー音楽界ではまだモノラル録音が主流であった中でのステレオ導入は、より豊かな音場感とクリアなサウンドを実現し、リスナーに新鮮な体験をもたらした。これは、彼らが音楽制作において常に新しい技術を取り入れようとする先進的な姿勢を持っていたことを示している。

テレビドラマとの強力なタイアップ

本楽曲は、作家・石坂洋次郎の同名小説を原作とし、日本テレビ系列で放送された連続テレビドラマ『何処へ』の主題歌として制作された。ドラマの内容と連動するような、青春の悩みや旅立ちを感じさせる歌詞とメロディーは、当時の多くの視聴者の心に響き、楽曲のヒットに大きく貢献した。

ドラマ主題歌という性質上、テレビでの歌唱機会には独特の事情があった。特に、タイアップ元である日本テレビ系列以外の音楽番組に出演する際には、本楽曲ではなく、シングルのB面に収録されていた「センチメンタル・シティ」を披露することが少なくなかったと言われている。これは、放送局の枠を超えた露出に関する当時の制約や慣行によるものと考えられ、現代ではあまり見られないプロモーションの形態だった。

さらに、ブルー・コメッツのメンバー自身も、ドラマとの関わりを深めた。彼らは、ドラマの最終回に『ブルー・スターズ』という架空のバンド名義で特別出演を果たしている。このドラマ出演シーンでは、彼らの初期のヒット曲であり、後に英語詞でも大ヒットする「青い瞳」の日本語バージョンを演奏している。メンバーの短いながらも印象的な演技は、ドラマの締めくくりに彩りを添えるとともに、バンドの多才さを示すエピソードとなった。

B面曲「センチメンタル・シティ」とその展開

「何処へ」のB面に収録された「センチメンタル・シティ」も、特筆すべき楽曲である。この曲は、後に演歌歌手として大成する藤圭子のデビュー曲「故郷の悲しき星」と同一のメロディーを持つ楽曲であり、ブルー・コメッツバージョンでは異なる歌詞が与えられている。同じメロディーが異なるジャンルのアーティストによって歌われるというのは、当時の音楽業界ではしばしば見られた現象であった。

「センチメンタル・シティ」は、前述のようにテレビ番組での演奏機会も多かったことからファンからの人気も高く、後に表題曲に格上げされる形で、「センチメンタル・シティ/何処へ」という両A面シングルとして再発売されている。この再発売の正確な時期は定かではないものの、両楽曲が多くの人々に愛されていた証拠と言えるだろう。

現代における評価と復刻

発売から長い歳月が流れた後も、「何処へ」は日本のポピュラー音楽史における名曲として語り継がれている。2014年6月11日には、過去の音源をCD-Rとして復刻するMEG-CDの形式で再発売された。これにより、当時のアナログ盤を所有していない音楽ファンや、デジタル環境で手軽に楽しみたいリスナーにとって、この名曲に触れる新たな機会が提供された。

「何処へ」は、テレビドラマとのタイアップによる商業的な成功、初のステレオ収録という技術的な挑戦、B面曲との興味深い関係性、そしてメンバーのドラマ出演といった多角的な側面を持ち合わせている。ジャッキー吉川とブルー・コメッツの洗練された音楽性と、当時の社会やメディアとの連携が結実したこの楽曲は、日本のグループ・サウンズ期を象徴する重要な作品として、今後も聴き継がれていくことだろう。

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