余田弦彦

余田 弦彦

日本の詩人、余田 弦彦（よでん つるひこ、生年不詳 - 1927年没）は、大正時代に活躍した人物で、特に旧制高等学校の文化において重要な足跡を残しました。彼が作詞した旧制高知高等学校の寮歌「豪気節」は、今なおその名を知られています。

余田は現在の熊本県の地に生を受けました。青春時代を熊本県立玉名中学校で過ごし、1921年にこの学び舎を卒業。その後、四国の高知県にある旧制高知高等学校へと進学しました。高知高校での学生生活において、彼は持ち前の情熱とリーダーシップを発揮し、応援団長という要職を務め上げます。

彼の名前を語る上で欠かせないのが、高知高校の寮歌「豪気節」です。この歌は、余田自身が作詞を手がけたものであり、当時の高知高校生の精神を象徴する歌となりました。1923年、第1回高知高等学校運動会という晴れの舞台で初めて披露された「豪気節」は、学生たちの間に瞬く間に広まり、愛唱歌となっていきます。

この運動会では、「豪気節」発表と合わせて、「ダクダク踊りの歌」と呼ばれるパフォーマンスも披露されました。1923年から1924年にかけて行われたこの踊りは、全身に墨を塗った学生たちが、腰に蓑をまとい、竹槍を手に踊り狂うという、極めて強烈で原始的なものでした。この奇抜なパフォーマンスは当時の学生や関係者の間で大きな話題を呼び、熱狂的な支持を得たと言われています。そして、この「ダクダク踊りの歌」は、後に戦前において大流行することとなる「酋長の娘」という歌の源流の一つになったと伝えられています。

高知高校での学生生活を通じ、余田は多くの友を得ました。中でも同級生であった秋田大助とは固い友情で結ばれ、青春の日々を共に過ごした大切な存在であったようです。

高知高等学校を卒業した後、余田はさらなる学問の道を志し、京都帝国大学法学部に進学しました。将来を嘱望される中での大学生活でしたが、残念なことに、彼はその学窓にあった1927年、若くして病に倒れ、短い生涯を終えることとなります。

余田弦彦の残した「豪気節」は、彼の死後も高知高等学校の精神として歌い継がれ、卒業生たちの心の拠り所となりました。そして現代においても、その功績は忘れられることなく、高知県を代表する景勝地である桂浜公園には、「豪気節」の歌碑が建立され、訪れる人々にその存在と歴史を語りかけています。短い生ではありましたが、余田弦彦は一曲の寮歌を通じて、確かな足跡を日本の文化史に残した人物と言えるでしょう。

もう一度検索