作用温度

作用温度（Operative Temperature）

作用温度（さようおんど、英語: operative temperature、略称: OT）は、人が快適に過ごせる温熱環境を評価するために用いられる重要な指標の一つです。「効果温度」と呼ばれることもあります。

作用温度が示すもの

室内で人が感じる温度、いわゆる体感温度は、空気自体の温度である気温だけで決まるわけではありません。部屋の壁や窓、床といった周囲の表面温度や、空気の流れ（気流）の状態も、体の熱のやり取りに大きく影響します。

例えば、同じ気温20℃の部屋でも、窓や壁が冷たければ体から熱が奪われやすく寒く感じますし、逆に周囲の壁が暖かければ快適に感じます。また、エアコンの風が直接体に当たると、体から熱が奪われて涼しく感じます。作用温度は、こうした気温、周囲の表面温度（平均放射温度）、そして気流が複合的に人の体感に与える影響を、一つの仮想的な温度として表現しようとするものです。

具体的には、作用温度とは、ある空間にいる人体が、周囲の壁面からの熱放射（輻射熱）と周囲の空気からの熱対流（対流熱）によって失う、または得る熱量と、均一な温度を持つ理想的な閉鎖空間にいた場合に、同じ熱量を失う、または得る時のその理想的な空間の温度を指します。

計算方法

作用温度は、以下の計算式で表されます。

$$ t_{o} = \frac{h_{c}t_{a} + h_{r}t_{r}}{h_{c} + h_{r}} $$

ここで、各記号は以下の物理量を表しています。

$t_{o}$：作用温度 [℃]
$h_{c}$：人体表面と周囲空気との間の対流熱伝達率 [W/(m²・℃)]
$h_{r}$：人体表面と周囲表面との間の放射熱伝達率 [W/(m²・℃)]
$t_{a}$：空気温度（気温） [℃]
* $t_{r}$：平均放射温度 [℃] （周囲の壁、床、天井などの表面温度を放射の観点から平均した温度）

この式は、作用温度が気温と平均放射温度を、それぞれ対流熱伝達率と放射熱伝達率で重み付けした平均であるということを示しています。つまり、対流による熱移動が支配的な環境（例えば気流がある場合）では気温の影響が大きく、放射による熱移動が支配的な環境（例えば壁面温度の影響が大きい場合）では平均放射温度の影響が大きくなります。

適用範囲と限界

作用温度は、主に暖房時の温熱環境評価に適した指標とされています。これは、作用温度の計算においては、人体の代謝活動によって発生する熱量や、汗の蒸発による熱損失（気流による冷却効果の一部）が直接的に考慮されていないためです。

例えば、夏場の冷房時など、体が汗をかいて蒸発による冷却に頼っている状況や、室内の気流が強く蒸発による冷却効果が大きい状況では、作用温度だけでは人が感じる快適性を十分に評価できない場合があります。特に、活動レベルの高い状況や、風速が大きい環境では、PMV (Predicted Mean Vote) などの他の温熱環境指標と組み合わせて評価を行うことが推奨されます。

関連情報

作用温度は、ISO 7730などの国際的な温熱環境基準においても、快適性評価の指標として利用されています。快適な室内環境を設計・評価する上で、作用温度の理解は非常に重要です。

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