作者付

作者付（さくしゃづけ）について

作者付とは、猿楽（能楽）の各曲目において、その作品の作者名をまとめた書物のことを指します。この文書は、室町時代から江戸時代にかけて作成されたものであり、特に能楽の歴史や理解には欠かせない重要な資料です。ここでは、主要な作者付の概要とその価値について詳しく解説します。

概要

現在確認できる最も古い作者付は、世阿弥の著作に登場するものであり、彼自身がその著作内で明記した記事があります。たとえば、彼の作品『申楽談儀』では、約30曲の能舞においてそれぞれの作者が記されています。これにより、家元ごとの様々な作品の由来や、創作の背景を理解する手助けとなります。

室町時代の後期には、『能本作者註文』や『自家伝抄』といった新たな作者付が成立し、江戸時代には幕府に提出された資料により、さまざまな流派や家元の伝承が文書として残されました。特に、観世大夫の元章が執筆した『二百十番謡目録』は、先行する多くの作者付を元に作成されていますが、信頼性に関しては注意が必要です。

作者付は、多くの能作品の作者情報を一元化しているため、能楽の研究において非常に重要な位置を占めています。しかし、各作品ごとに信頼の度合いは異なるため、批判的な視点での検討が重要です。

主な作者付

1. 申楽談儀

永享2年（1430年）に成立したこの著作は、世阿弥が能曲の模範を挙げた作品で、特に信頼度が高い基本資料となっています。ここでは、世阿弥や観阿弥、井阿弥などの著名な作者たちが記されています。

2. 五音

世阿弥の晩年の著作である五音は、能楽の謡の方法論を記したもので、約70曲の能の著作者について言及されています。著者たちの定義に関しては議論がありますが、依然として重要な資料と見なされています。

3. 能本作者註文

1524年に成立し、吉田兼将によって編纂されました。観世長俊の談話に基づくこの資料は、信頼性の高い情報源となる一方で、一部の作品について不正確な記述もあるため、取り扱いには注意が必要です。

4. いろは作者註文

いろは順に能曲名を列挙し、その作者名を注記した文書です。室町後期に成立し、古曲も多く含まれており、他の資料の補完として役立ちます。

5. 自家伝抄

16世紀初頭に成立したこの資料は、能に関する伝書の重要な一部で、特に世阿弥の著作と関係が深いです。内容の中には、他の作者付とは異なる意見があるため信頼性には検討が必要です。

最後に

これまでの説明からも分かる通り、作者付は能楽の研究や理解を深めるための礎となる重要な資料です。しかし、各資料の信頼性や成立の背景を考慮し、慎重に解釈することが求められます。能楽の歴史を辿る上で、作者付が持つ役割は極めて重要であり、今後の研究においてもその価値は変わらないことでしょう。

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