使いみちのない風景

使いみちのない風景

『使いみちのない風景』は、村上春樹が文を担当し、稲越功一が写真を手がけたフォト・エッセイ集です。この作品は、1994年12月に朝日出版社より発表され、村上春樹と稲越功一のコンビによる二度目の共作となります。初めての共作である『波の絵、波の話』が主に写真で構成されていたのに対し、本書は文章と写真がバランスよく配置されています。

タイトルの「使いみちのない風景」は、ブラジル出身の音楽家アントニオ・カルロス・ジョビンの楽曲「Useless Landscape」からインスパイアされたものです。このタイトルからも、風景が持つ意味や価値に対する思索がうかがえます。

本書は、単なる風景写真集にとどまらず、村上春樹の独特の視点や感受性が反映された詩的な文章と、それに呼応する形で配された美しい写真群が、読む者の心に響く作品となっています。春樹が描く言葉は、目の前の風景を新たな目で見るためのきっかけとなり、稲越の写真はその言葉の世界を視覚的に補完する役割を果たしています。

また、1998年8月には、中央公論社によって文庫版が出版され、この版には新たに2本のエッセイが追加されています。これにより、さらに深い読み応えが加わり、村上春樹の文章をより多角的に楽しむことができるようになりました。

本書の魅力は、何気ない風景の美しさを再発見することにあります。人間の日常生活の中で見過ごされがちな場所や瞬間を捉え、そこに潜む豊かな表情や感情を引き出しています。ページをめくるたびに、視覚的な印象が強く残り、村上春樹の言葉が心の奥に寄り添うように感じられることでしょう。

『使いみちのない風景』は、私たちが普段目にする風景を新たな視点で捉えなおすきっかけを与えてくれる作品です。日常の中に潜む美しさや無駄のない景観が、写真と文章を通して鮮やかに表現されています。その一つ一つの表現は、心に余韻を残し、読者に深い感慨を呼び起こします。

このフォト・エッセイ集は、村上春樹の豊かな言語感覚と、稲越功一の卓越した写真技術が融合した贅沢な作品です。風景を巡る旅に出たくなるような、そんな作品を忘れずに手に取ってみてください。

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