使徒たちの聖体拝領 (バロッチ)

フェデリコ・バロッチ「使徒たちの聖体拝領」

フェデリコ・バロッチによる「使徒たちの聖体拝領」（または「聖餐の創始」）は、ルネサンス後期のイタリアを代表する画家が手がけた、油彩による壮大な祭壇画です。この作品は、キリストが最後の晩餐で弟子たちに聖体を授ける場面を描いており、その深い精神性と芸術的な完成度から、バロッチの傑作の一つとして高く評価されています。

作品の背景

この作品は、ローマ教皇クレメンス8世が自身の家族礼拝堂のためにバロッチに委嘱したものです。制作のきっかけとなったのは、バロッチの「聖母の神殿奉献」が1603年に公開された際、教皇がその才能に感銘を受けたことだと考えられています。当初、教皇のお気に入り画家はジュゼッペ・チェーザリでしたが、この祭壇画の委嘱ではバロッチが選ばれました。この決定は、バロッチの芸術性が高く評価されていたことを示唆しています。

教皇は、バロッチに祭壇画が設置される礼拝堂に関する詳細な情報を提供しました。礼拝堂の壁にはケルビーノ・アルベルティによるフレスコ画「聖十字架の奇跡」があり、バロッチはそれらも考慮して構図を練ったと考えられます。また、教皇は当初の構想にあった悪魔の要素を取り除き、夜景図にするよう要望したと伝えられています。教皇の意向が作品に反映されている点も注目に値します。

作品の詳細

作品の舞台は、居酒屋のような屋内です。画面奥には輝く銀食器が置かれ、若い給仕がテーブルを整えています。前景にも給仕が描かれており、日常的な雰囲気を醸し出しています。画面中央にはキリストが立ち、天使たちがその上空に描かれています。使徒たちはキリストの周りに集まり、ひざまずいて聖体拝領を受けようとしています。特に注目すべきは、画面右端で他の使徒たちから離れた場所にいるイスカリオテのユダです。彼は30デナリの入った袋を持ち、頬杖をついており、裏切り者としての彼の役割が暗示されています。

バロッチは、ラファエロの「アテナイの学堂」に描かれたヘラクレイトスの肖像を、ユダの顔として借用しています。この肖像は一般的にミケランジェロのものと考えられており、バロッチがミケランジェロの顔をユダに用いたことは、美術史的な視点からも興味深い点です。これは、ミケランジェロに対するバロッチの評価を表しているとも解釈できます。さらに、ラファエロから直接肖像を借用することで、当時のカトリック教会内における画家たちの相対的な地位を示唆しているとも考えられます。

バロッチは、この祭壇画の報酬として1,500スクーディを要求しました。この金額は、描かれた人物の数に影響されたものと推測されています。同時期に描かれたより簡素な「キリストの磔刑」が300スクーディであったことからも、この作品にどれほどの労力が費やされたかがわかります。

まとめ

「使徒たちの聖体拝領」は、バロッチの卓越した芸術的才能を示すだけでなく、当時の社会や宗教的な背景をも反映した作品です。複雑な構図、繊細な筆致、そして深い象徴性は、見る者を魅了し続けています。この作品は、ルネサンス美術の巨匠たちの影響を受けつつ、バロッチ独自のスタイルを確立したことを示す、重要な作例といえるでしょう。

参考資料

* Museo Virtuale Ultima Cena サイト ([イタリア]]語): [フェデリコ・バロッチ『使徒たちの聖体拝領』

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