ジュゼッペ・チェーザリ

ジュゼッペ・チェーザリ（Giuseppe Cesari、1568年2月生 - 1640年 7月3日没）は、16世紀末から17世紀にかけて、ローマ画壇の中心的存在として活躍したイタリアの画家です。教皇クレメンス8世から騎士の称号を授けられたことから、「カヴァリエーレ・ダルピーノ（アルピーノの騎士）」の通称でも広く知られています。主にローマの宮殿や教会を飾る壮麗な装飾画を手がけ、当時の美術界に大きな影響力を持っていました。

生い立ちと初期の研鑽

彼の出生地については、父が画家ムツィオ・チェーザリ、母がスペイン貴族の娘であった家系の故郷である、当時ナポリ王国の支配下にあったアルピーノとする説と、ローマとする説があります。いずれにせよ、早くからローマに移り住み、1582年頃にはニッコロ・チルチニャーニの弟子となりました。若きチェーザリは、師の助手としてバチカンの開廊（ロッジア）の装飾画制作に携わり、その才能を認められます。学者であり司祭であったイグナツィオ・ダンティの推薦を得て、教皇グレゴリウス13世から奨学金を受けるなど、将来を嘱望される存在でした。ジャコモ・ロッカからも学び、さらにロッカの師であるマニエリスムの巨匠ダニエレ・ダ・ヴォルテッラの作品研究を通じて、自身の芸術様式を確立していきました。

キャリアの確立と「カヴァリエーレ・ダルピーノ」

美術アカデミーへの参加も早く、1583年末にはアカデミア・ディ・サン・ルカの会員となっています。1584年にはトリニタ・デイ・モンティ教会での装飾画制作、1585年にはクイリナーレ宮殿での仕事と、ローマの主要な建造物でのプロジェクトに次々と参加しました。18歳を迎えた1586年には、権威ある教皇庁美術・文芸アカデミー（Pontificia Insigne Accademia di Belle Arti e Letteratura dei Virtuosi al Pantheon）の会員に選出されるなど、その地位を確固たるものにしていきます。

ローマでの活動の傍ら、1589年にはナポリへ赴き、サン・マルティーノ修道院の装飾画制作に着手しますが、完成を見ずにローマへ帰郷しました。このナポリでの仕事は、彼の弟であるベルナルディーノ・チェザーリが引き継ぎ、完成させています。1591年から1598年にかけては、ローマのサン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会で装飾画を手がけ、その名声を一層高めました。この間、後のバロック美術を代表する巨匠となるカラヴァッジオが、1592年頃から約2年間、彼の工房で助手として働いていたことは特に有名です。

1592年には、時の教皇クレメンス8世によって騎士の称号を授けられます。これにより、彼は「カヴァリエーレ・ダルピーノ」として知られるようになり、その社会的地位も芸術家としての名声も最高潮に達しました。

ローマ美術界の重鎮として

1599年にはアカデミア・ディ・サン・ルカの会長に就任し、ローマの美術界における彼の権威と影響力はさらに増しました。その後も、ローマで最も有力かつ裕福な画家の一人として、多くの依頼を受け、精力的に作品を制作し続けました。彼の工房からは、フランチェスコ・アレグリーニ・ダ・グッビオ、グイド・ウバルド・アバティーニ、ヴィンチェンツォ・マネンティ、ベルナルディーノ・パラソーレなど、多くの画家が育っています。

ジュゼッペ・チェーザリは、マニエリスム後期から初期バロックへの移行期において、ローマの美術を牽引した重要な人物です。その華麗で装飾的な様式は当時の権力者たちに支持されました。彼の作品は、現在もイタリア国内外の宮殿や教会、美術館で見ることができます。1640年 7月3日にローマで生涯を閉じました。美術史における彼の位置づけは、偉大な弟子カラヴァッジオの影に隠れがちですが、当時のローマにおいては疑いなく第一級の巨匠であり、その後の世代の画家たちにも少なからぬ影響を与えたのです。

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