侍女の物語

『侍女の物語』（The Handmaid's Tale）は、カナダの作家マーガレット・アトウッドによって1985年に発表されたディストピア小説です。発表されるや否やベストセラーとなり、批評家からも高い評価を受けました。カナダ総督文学賞やアーサー・C・クラーク賞など、数々の文学賞を受賞しています。

2019年には続編となる『誓願』（The Testaments）が刊行され、こちらも大きな話題となりました。この作品は、映画化（1990年）やHuluでのドラマ化（2017年）もされており、世界中で広く知られています。

作品の概要

物語の舞台

舞台は、近未来のアメリカを舞台とした「ギレアデ共和国」。キリスト教原理主義勢力が台頭し、民主主義国家だったアメリカは宗教国家へと変貌しました。この国では、有色人種やユダヤ人は迫害され、他の宗派は一切認められていません。また、国民は常に監視され、逆らう者は処刑や収容所送りにされるという、非常に抑圧的な社会です。

環境汚染や原発事故、遺伝子実験などの影響で出生率が著しく低下し、健康な女性は子供を産むための道具として扱われるようになります。彼女たちは「侍女」と呼ばれ、支配者層である司令官に仕えることを義務付けられています。

あらすじ

主人公のオブフレッドは、侍女としてこのギレアデ共和国で生きています。恐怖と絶望に耐えながら、表面上は従順を装っています。常に監視の目を意識しながら司令官に仕える日々ですが、ある日、司令官は彼女に人間として接し始めます。一方、司令官の妻は、夫に授精能力がないことを悟り、オブフレッドに運転手のニックとの関係を密かに命じ、妊娠を望みます。

主要登場人物

オブフレッド: 物語の語り手である主人公。ギレアデ誕生前は図書館で働き、夫と娘がいました。国外脱出を試みるも捕まり、侍女の養成施設に送られました。本名は原作では不明ですが、映画版ではケイト、ドラマ版ではジューンと呼ばれています。
司令官: オブフレッドの主人で、ギレアデの有力者。密かにギレアデ誕生前の文化を愛好しています。
セリーナ・ジョイ: 司令官の妻。ギレアデ誕生前は女性は家庭を守るべきと主張するテレビタレントでした。現在は自らの主張通りの生活を送っています。
モイラ: オブフレッドの親友。レズビアンです。オブフレッドと共に侍女の養成施設に送られましたが、脱走し、政府高官専用の秘密売春宿で娼婦として働いています。
ニック: 司令官の運転手。
ルーク: オブフレッドの夫。前妻と離婚後、オブフレッドとの間に娘が生まれました。
リディア小母: 女性自身による女性統制機関の一員で、侍女養成施設の教官。続編小説『誓願』では主要人物の一人として登場します。

映画化

1990年には、フォルカー・シュレンドルフ監督によって映画化されました。ナターシャ・リチャードソン、フェイ・ダナウェイらが出演し、坂本龍一が音楽を担当しました。原作とは異なり、メロドラマ的な内容になっています。

キャスト

ケイト/オフレッド: ナターシャ・リチャードソン
セレナ・ジョイ: フェイ・ダナウェイ
ニック: エイダン・クイン
司令官: ロバート・デュヴァル
オフグレン: ブランチ・ベイカー
モイラ: エリザベス・マクガヴァン
リディア小母: ヴィクトリア・テナント
ルーク: ライナー・ショーン

テレビドラマ化

2017年にはHuluでドラマ化され、『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語|ハンドメイズ・テイル_侍女の物語』として配信されました。2017年のプライムタイム・エミー賞では、作品賞を含む5部門を受賞し、2018年のゴールデングローブ賞では、テレビドラマ部門の作品賞と主演女優賞を受賞しています。

2022年9月8日には、シーズン6で終了することが決定し、その後は続編スピンオフ小説である『誓願』を映像化する予定です。シーズン5の配信が2022年9月14日に前倒しされたのは、その準備のためと言われています。シーズン6の配信は2023年末から2024年初頭と見込まれていましたが、2023年5月に始まった全米脚本家組合ストライキの影響で脚本の執筆が中断しています。

作品の影響

2017年6月、イギリスの俳優エマ・ワトソンが、女性の権利を擁護するキャンペーンとして、本作の書籍100冊をパリ市内に隠し、そのヒントをTwitterで発信しました。この活動は大きな反響を呼び、多くの人々に本作を知らしめるきっかけとなりました。

日本語訳

『侍女の物語』、斎藤英治訳、新潮社、1990年 / ハヤカワ文庫、2001年（訳注などを増補）
『侍女の物語　グラフィックノベル版』、早川書房、2020年。ルネー・ノールト画
『誓願』、鴻巣友季子訳、早川書房、2020年 / ハヤカワ文庫、2023年
作品論『マーガレット・アトウッド『侍女の物語』を読む－フェミニスト・ディストピアを越えて』加藤めぐみ・中村麻美編、西あゆみ訳、水声社、2023年。アトウッド本人も寄稿

外部リンク

The Handmaid's Tale Study Guide & Essays – At Gradesaver.
侍女の物語 - allcinema
侍女の物語 - KINENOTE
The Handmaid's Tale - オールムービー（英語）
The Handmaid's Tale - IMDb（英語）

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