侏儒の言葉

『侏儒の言葉』は、芥川龍之介が大正12年（1923年）から昭和2年（1927年）にかけて執筆した随筆・警句集です。同時代の雑誌『文藝春秋』に1923年1月号から1925年11月号まで連載され、その後書籍として刊行されました。しかし昭和14年（1939年）には、軍部を批判する内容として問題視され、改訂処分を受けるという経緯も持っています。

タイトルの「侏儒」は、本来は体の小さな人を指す言葉ですが、ここでは芥川自身の自嘲的なニュアンスも含まれていると考えられます。また、知識のない者、あるいは俳優を指す言葉としても用いられる多義的な言葉です。

本書の内容は、短い警句や随想が中心で、長い文章も含まれています。各々の節は独立したテーマを扱っており、芥川の思想や人生観の一端を垣間見ることができます。例えば「危険思想とは常識を実行に移そうとする思想である」や「完全なるユートピアの生れない所以は大体下の通りである。――人間性そのものを変えないとすれば、完全なるユートピアの生まれる筈はない。人間性そのものを変えるとすれば、完全なるユートピアと思ったものもたちまちまた不完全に感ぜられてしまう。」といった、短いながらも深く考えさせられる言葉が多数収録されています。

序文では、自らの思想を直接的に伝えるものではなく、思想の変化を垣間見せるものだと記しています。これは、芥川自身の考えの流動性や、常に変化を続ける自身の内面を反映していると言えるでしょう。

『侏儒の言葉』は、芥川の晩年の作品として知られており、その内容は、彼の生きた時代背景や、彼自身の内面世界を反映した複雑で多様なものです。アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』やアナトール・フランスの『エピクロスの園』からの影響も指摘されており、芥川龍之介の幅広い読書範囲と深い考察力がうかがえます。なお、ビアスを最初に日本に紹介したのは芥川自身でした。

『侏儒の言葉』は、単なる警句集としてだけでなく、芥川龍之介の思想や人生観を理解する上で重要な作品であり、彼の複雑な内面と鋭い洞察力を読み取ることができる貴重な資料と言えるでしょう。短い言葉の中に込められた深い意味を読み解くことで、読者は新たな発見や気づきを得ることができるはずです。作品全体を通して、ユーモアや皮肉、そして深い悲しみといった多様な感情が表現されており、その多様性こそが『侏儒の言葉』の魅力と言えるでしょう。現代においても、その言葉は多くの人々に考えさせ、共感を与えるでしょう。 青空文庫でデジタルテキストとして閲覧可能です。

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