俗物図鑑

俗物図鑑

『俗物図鑑』は、1972年に発表された筒井康隆による長編SF小説であり、1982年には内藤誠監督によって映画化もされた作品です。新潮社から単行本として出版された後、新潮文庫にも収録され、多くの読者に親しまれています。

あらすじ

物語は、風巻機工の営業第二課長である雷門享介と、営業庶務の平松礼子がお歳暮会議をしている場面から始まります。しかし、社長の風巻扇太郎が趣味の盗聴によって二人の会話を聞き、誤解から礼子は会社を解雇されてしまいます。しかし、享介と礼子の関係はその後も続き、享介は接待のプロとして、ガンマ・ジーゼルの本橋を接待するためにスナック『青磁』へと向かいます。

その後、享介は常連が集まる『KO』という店で、吐瀉物のプロであるスポーツ紙記者の片桐や、口臭のプロである部下の小口昭之助と出会います。さらに、礼子の兄であるベストセラー作家の平松景吉から、接待に関する本の執筆を依頼されます。しかし、接待ばかりで家を顧みない享介は、妻と息子から家を追い出されてしまいます。

会社では、享介と昭之助が扇太郎の盗聴の証拠を突き止め、扇太郎は社長の座から逃れるために享介に500万円を渡します。一方、本橋は浮気が原因で家を追い出され、礼子、享介と共に『梁山泊』というアパートに入居。そこで、自身の横領を告白します。景吉は本橋にも泥棒に関する本の執筆を依頼します。

扇太郎は、夫保田鉄工創業百年記念パーティで宴会のプロである西条圭一と出会いますが、スピーチでの失態から蒸発を決意。扇太郎と圭一は共に梁山泊へと逃げ込みます。そして、享介は梁山泊の住人たちと、その知り合いを集めて『梁山泊プロダクション』という評論家事務所を設立し、自ら社長となります。

登場人物

梁山泊プロダクション

雷門享介: 元風巻機工営業第二課長。梁山泊プロの社長で、接待評論家。
平松礼子: 元風巻機工営業庶務。贈答評論家。
風巻扇太郎: 元風巻機工二代目社長。養子。盗聴評論家。
小口昭之助: 元享介の部下で、享介の後任の営業第二課長。口臭評論家。享介の秘書。
本橋浪夫: 元ガンマ・ジーゼル資材課長。横領評論家。
沼田峰子: 元風巻機工の英文タイピスト。万引き評論家・月経評論家。
片桐孝太郎: 元スポーツ紙記者。反吐評論家。
杉沢亜香: 連続放火魔。火事評論家。片桐がスカウトした。
城亀吉: 元アパート『梁山泊』の管理人。出歯亀評論家。天井裏に侵入するプロでもある。
平松景吉: 礼子の兄。ベスト・セラー評論家。梁山泊出版部を受け持っている。
西条圭一: 元西条機械四代目社長。養子だった。パーティ評論家。
芥山虫右衛門: 天涯孤独の老いぼれ。皮膚病評論家。様々な皮膚病に罹患している。
平戸源五郎: 元高丸アパート宣伝課長。麻薬評論家。享介がスカウトした。
深山玄蔵: 元大手会社の総務部長。痰壺評論家。
雷門豪介: 享介の息子。カンニング評論家。
羽根田俊也: 元写真家。飛行機を墜落させようとした犯罪者。墜落評論家。
九十九八十八: 元鉄工所の経営者。何度自殺を試みても、自殺ができない。自殺評論家。
歌川華子: 女医。性病評論家。

映画

1982年には、内藤誠監督によって映画化されました。平岡正明が雷門享介役を演じ、巻上公一、南伸坊など、多くの評論家や文化人が出演しています。自主映画として制作され、第9回映画ファンのための映画まつり（おおさか映画祭）で自主映画賞を受賞しました。

『俗物図鑑』が描く世界

『俗物図鑑』は、現代社会における人間の欲望や滑稽さを、SF的な設定とユーモアを交えて描いた作品です。各界のプロたちが「評論家」として活躍する奇想天外な世界観は、読者や観客に強烈な印象を与え、今もなお多くの人々に愛され続けています。

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