俺らいちぬけた (岡林信康の曲)

俺らいちぬけた

『俺らいちぬけた』は、フォークシンガーの岡林信康が1971年7月20日にURCレコードから発表したシングルレコードである。このシングルは、後にリリースされる同名のアルバム『岡林信康アルバム第3集 俺ら いちぬけた』からの先行シングルとして位置づけられている。ただし、本作のB面に収録されている楽曲「申し訳ないが気分がいい」は、アルバム収録バージョンとは異なるシングル独自のバージョンとなっている。

解説

表題曲「俺らいちぬけた」は、岡林信康のキャリアにおける重要な転換期を象徴する楽曲として知られる。初期の岡林は、「プロテストソングの神様」とも称され、歌を社会や権力に対する「戦いの武器」あるいは「イデオロギーを広めるための道具」として強く意識していた。周囲の支持者たちもまた、彼のそうした姿勢やメッセージを熱狂的に支持し、ある種の一体感を形成していた。

しかし、活動を続ける中で、彼は次第にその考え方や状況に違和感を抱き始める。熱狂的な支持や、「神様」として担ぎ上げられるような偶像化の動きは、彼にとってむしろ重圧となり、「ヘビーだった」と後に振り返っている。彼は、自らに向けられる偶像視や、凝り固まっていくイデオロギー的な枠組みと真正面から対峙しようと試み、全身全霊をかけて戦いを挑んだ。

しかし、この苦闘は彼に深い疲弊と挫折感をもたらした。その結果は、まるでリング上で奮闘したものの無残なKO負けを喫し、静かにリングを降りるボクサーのような心境であったとされる。活動の初期衝動や、熱狂的な支持の渦中から身を引くことを示唆するような、この時期に抱いた複雑な心情や新たな決意が、「俺らいちぬけた」という言葉に集約され、楽曲として表現されたのである。

また、「俺らいちぬけた」の楽曲サウンドが、それまでのフォークやメッセージ性の強いスタイルから変化し、穏やかなカントリー調を取り入れている点も特筆される。このサウンドの選択は、当時の都会生活の騒がしさや喧騒から距離を置き、より静かで穏やかな田園生活、安らぎのある情景への希求が反映されたものである。彼はこの楽曲を通じて、聴き手に田舎の風景を想起させるような、心落ち着く音楽表現を目指した。なお、この楽曲については、編曲を担当した柳田ヒロがロック調での演奏を望み、実際にそのバージョンでの録音も行われたというエピソードが残されている。

収録曲

全作詞・作曲・歌：岡林信康、編曲：柳田ヒロ

SIDE A

1. 俺らいちぬけた – (3:37)

SIDE B

1. 申し訳ないが気分がいい（シングル・バージョン） – (4:45)

レコーディング・メンバー

唄：岡林信康
ギター：鈴木慶一、和田博己
ピアノ、オルガン：柳田ヒロ
ドラム：戸叶京助
ベース、エレクトリック・ギター：高中正義
バンジョー：岩井宏
スチール・ギター：小林潔
フィドル：玉木宏樹
フルート：衛藤幸雄
ストリングス：71ストリングス

スタッフ

Mix：梅津達男
R.D.：田川律、柳田ヒロ
Photo.：川仁忍
A.D.：黒田征太郎
制作：アート音楽出版

関連項目

1971年の音楽

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