個別的自衛権 (自衛権)

個別的自衛権とは

個別的自衛権とは、他国からの武力攻撃に対し、自国を防衛するために必要な武力を行使する国際法上の権利です。これは、国連憲章第51条で保障された「固有の権利」であり、自衛権の一種として位置づけられています。

概要

個別的自衛権は、自国が直接攻撃を受けた場合に、その攻撃を排除するために武力を行使する法的根拠となります。類似の概念である集団的自衛権は、自国が直接攻撃を受けていなくても、同盟国などが攻撃を受けた際に共同で反撃する権利を指します。

個別的自衛権の概念は、慣習国際法上の自衛権が国連憲章に明記される際に、集団的自衛権と区別されて誕生しました。ただし、国際法上、「個別的自衛権」そのものに対する明確な定義は存在していません。

国連憲章成立後には、集団的自衛権は「他国への攻撃が自国の法益を侵害する場合に、各国が個別的自衛権を行使する」という「個別的自衛権共同行使説」も提唱されました。しかし、国際司法裁判所のニカラグア事件判決において、「武力攻撃に至らない武力の行使」に対する集団的自衛権の行使は認められないと判断され、集団的自衛権は「他国を防衛するための権利」として確立しました。

歴史

自衛権の概念は、1837年のカロライン号事件で初めて広く議論されました。この事件を通じて、「急迫性」「不可避性」「均衡性」の3つの要素からなる「ウェブスター見解」が示され、自衛権の大まかな概念が確立しました。

第二次世界大戦後の国連憲章起草時には、安全保障理事会の機能不全を懸念した中南米諸国の主張により、安保理の事前許可なしに防衛行動が取れる根拠として、国連憲章第51条に「個別的又は集団的自衛の固有の権利」という文言が盛り込まれました。これにより、「個別的自衛権」という独立した概念が国際法上明記されることとなりました。

日本における個別的自衛権

日本では、1972年に「集団的自衛権に関する政府統一見解」を発表し、集団的自衛権の行使は憲法上許されないとの解釈を示してきました。そのため、早い段階から「個別的自衛権」と「集団的自衛権」の分離がなされてきました。

2014年には、安倍政権が集団的自衛権の限定的な行使を容認する憲法解釈の変更を行い、2015年に平和安全法制が制定されました。それ以前は、「①我が国に対する急迫不正の侵害があること、②他に適切な手段がないこと、③必要最小限度の実力行使にとどまること」という「旧三要件」の下で、個別的自衛権の行使のみが認められていました。

自衛権行使の開始と終了

日本が自衛権を行使できるのは、武力行使の新三要件を満たす場合に限られます。具体的には、「武力攻撃の目的をもった軍事行動が現実に開始されたとき」に武力攻撃の発生が認められると解釈されています。

自衛権の行使は、国連憲章第51条により「安全保障理事会が国際平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間」に限定されていますが、日本政府は安保理が措置を講じた場合でも、必ずしも自衛権が消滅するわけではないとの解釈を示しています。

自衛権行使の地理的範囲

日本が行使できる個別的自衛権の地理的範囲は、必ずしも領土、領海、領空に限定されず、公海や公空にも及び得ると解釈されています。また、宇宙空間での自衛権行使も否定されていません。

例えば、日本に対する武力攻撃が発生し、個別的自衛権を行使している状況下で、国民の生存に不可欠な物資を輸送する第三国の船舶が公海上で攻撃を受けた場合、その攻撃を排除することは個別的自衛権の範囲に含まれると解釈されています。さらに、自衛権発動の三要件に該当する場合は、敵国領域への武力行使も自衛権行使の範囲に含まれると考えられています。

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